九条完子の想い―2
鷹司(上里)美子が、そんな考えをしていることを知る由も無く、完子はとりとめのない考えが、更に浮んでならなかった。
私の兄弟姉妹が、改めて仲良くなれたのは、美子ちゃんのお蔭かも。
勿論、余りにも巨大な代償を払った末だけど、それは私の実母、小督のせいだ。
自分の兄弟姉妹だが、自分を含めれば、三男六女の9人兄弟姉妹になる。
だが、細かいことを言えば、長男の広橋正之は、私の異母弟だ。
父が私の実母以外との間に儲けた子なのだ。
実母が、夫の浮気は許せない、と怒る気持ちは分かるが、モノには限度がある。
正之が胎児の頃、実母には私を含めて三人の娘を産んでいて、四人目(尚、これ又、結果的に娘だった)を妊娠中だった。
だから、私の妊娠中に浮気をするとは、更にもし、私の四人目の子が女児で、愛妾が男児を産めば、愛妾の子が、夫の跡取り息子になる、と深読みして、実母が激怒したのは、分からなくもない。
だからといって、自らの義姉になるローマ帝国のエウドキヤ女帝に泣きついて、母子諸共に殺そうとするのは、許されないことだろう。
父が慌てふためいて、方々に働きかけた結果、胎児だった正之は母と共に、日本の上里家に庇護されることになり、そこで美子の実母の広橋愛と正之の母は知り合うことになった。
そして、この騒動は、それなりに世界に知られることになり、ローマ帝国大宰相の上里勝利が、エウドキヤ女帝を宥めすかしたこと等から、更に正之を産む際に正之の実母が亡くなったことから、正之は広橋愛の養子になり、徳川家の人間では無くなって、それなりにだが、徳川家の後継者問題は落ち着くことになったのだ。
そして、実母は家光と忠長という二人の男児を後に産んで、徳川家の後継者問題は、完全に解決することになった筈だったのだが。
更にややこしい事態が起きてしまった。
私は既に日本に住んでいたこともあり、更に美子ちゃんが親友だったことから、正之が自分の異母弟なのを教えられることになった。
そして、正之は養母の広橋愛の育て方が良かったのもあるだろう、家光や忠長よりも遥かに優秀だ、と多くの人が考える事態が、更に起きてしまった。
こうしたことから、徳川家関係者の多くが、
「もしもの時は、正之を徳川家に呼び戻すべきでは」
と内々に言う事態にまで至ったのだ。
そして、それを漏れ聞いた私の実母は、家光と忠長にスパルタ教育を施すことになったが。
元々の才能の違いが、それで埋まるのかというと。
家光は、実母と仲が悪かったこと、更には軍人に憧れた為に鷹司孝子(美子ちゃんの義妹で、ローマ帝国陸軍参謀総長等を務めた佐々成政の孫娘)と結婚したこと等から、実母から完全に逃げてしまった。
だが、忠長は実母から逃げそびれてしまい、散々に圧力を掛けられたことから、精神を病み、私達の両親の死後に殺人事件を起こして、射殺される事態を引き起こしたのだ。
このことは本当に大問題で、妹の千江が心を痛める余りに、皇后から退いて、出家しようとする事態にまで至った。
だが、美子ちゃんが、
「皇后陛下に全く責任はありません。悪いのは忠長本人です」
と懸命に庇ったことから、世論もそれなりに落ち着き、妹の千江は皇后陛下のままとなったのだ。
そして、美子ちゃんが、私たち兄弟姉妹に様々に働き掛けたことが相まったことから。
正之は、養母からの影響、更に徳川家の血筋を見事に受け継いだのもあるだろう、岩代県で労組の役員を務めた後、労農党から衆議院議員に当選して、「会津宰相」と呼ばれるまでになり、亡くなった伊達政宗首相の見事な後継者になった。
更には、正之を中心にして、私たち兄弟姉妹は改めて仲良くなることができて、本当に良かった。
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