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第5話

「治癒師様、ありがとうございました。あの、お代は……」


「あ、ああそんなものはいらんよ」

「え、そういうわけには……」

「そもそも捨て猫なんだろ」

「え、あ、まあ……」

「それよりもな、この猫飼ってあげるんだな。オスの三毛猫はノラで生きていくのはいろいろ危険だからな」

「そうなんですか」

「ほとんど存在しない猫だからな。三毛猫はほぼすべてメスで、こいつは超希少種さ。魔物扱いされて忌み嫌われることの方が多いから、誰かに襲われたのかもしれん」

「ああ、それでけがをしていたのでしょうか。でも、草を敷いた箱に入っていたんです」

「ん? それは奇妙だな」

「道端に置かれていたのを見つけたのですが」

「何か裏があるかもしれないな」


「ああ、そう言えば、治癒師様がいらっしゃる前に、不思議なことがあったんです」

「あ、治癒師様ってのはやめてもらえないかな。俺の名前はガルト。しがない動物のお医者さんだ。数百年後には大魔導士になるかもしれないエルフの君とは違って、動物の治療しかできないちっぽけな人間にすぎないからな」

「え、あ、そんなことないです。私、劣等生だし、治癒師様……こんなすごい治癒魔法を習得されているのに……」

「まあ、とにかく俺のことはガルトと呼んでくれ。で、不思議なことって?」

「あ、はいガルト様。実はこの猫ちゃん、言葉がわかるみたいだから話しかけていたら……」

「ああ、言葉のわかる動物はいないことはないがな」

「いえ、そうではなくて……」

「ん?」

「突然、人間の姿になったんです」

「なんだって!?」

「急に男の子の姿に変化して、しゃべったんです」

「それは確かに驚くな」

「でも男の子はしゃがんだら気を失って、猫の姿に戻ってしまいました」

「ううむ。そんな話は長年動物の医者をやっていて聞いたことがないな。でも、お嬢ちゃんが嘘を言っているとも思えんしな。夢を見ていたのではないだろうな」

「あれが夢なはずがありません。はっきり覚えています。彼の小さな……」

「彼の小さな?」

「あ、いやなんでもありません」


 ボクは目を覚ましていた。「小さな」はないだろ。ボクだって好きで人間の姿に戻ったわけじゃないのに。


「ンニャ」

 ボクは小さく鳴いてみた。


「あ、意識が戻ったのね。お腹が空いているのかな」


「まあ、こういうときはミルクをやるのが一番いいんだが、あいにく切らしちまってる。牧場帰りなのにすまんな」

「あ、お気になさらず。私、錬成魔法はちょっと得意なんです」

「ほう」

「ただ……」

「ん?」

「何もないところから錬成するのはまだできなくて……」

「ああ、わかった。じゃあ、パンを基にミルクを錬成できるか?」

「あ、はい。有機物からのタンパク質錬成ですね」

「おお。すごいな。俺はそんな魔法は絶対無理だ。さすがエルフだな」

「は、はい。なんか自信が出てきました」

「ちょっと待っててくれ。パンを持ってくる」

「はい」


 ジーニアが魔法で錬成したミルクをスプーンでボクの舌の上に乗せた。おいしい。何度かスプーンが往復し、ボクは舌でミルクを飲み干した。急に眠気が襲い、ボクはまた気を失った。

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