8. 少女のさむしんぐ
本編突入ですーーーからのだるだるとした話。
話の流れだけで言うと次回あたりから本格的になるのです( ー`дー´)キリッ
白を基調にキラキラと彩られた部屋で1人、リリア・オジューム(60歳)は溜息をついていた。
(私、迷惑じゃないかしら?)
今のリリアに、自分に関する情報はほぼない。
名前に年齢、これだけである。
転生前の名をベラ・ザーレ。
魔術信仰の世界線、有名な公爵家に生まれたものの、家族に虐げられる日々を送っていたところ、絶世の美男である王弟──つまり統治者の弟 に溺愛されるようになった。
そして結局、王弟に愛を向けられていることを恨んだ何者かに殺されて命を絶やしたのだ。
正直仕方ないとは思っている。
それまでが夢物語だったのだ。
次に起きたら爆発に巻き込まれていた。
……そこは怪我でベッドに居るシーンの方がまだマシなのに、なんて思ったが誰に言うでもなくまたも意識を飛ばしたのである。
そしてやっとこさベッドにいる状態になったと思ったら、軽い聞き取りが始まる。
なぜか転生したこと・今の自分の名前・年齢だけを覚えていた。
年齢を言うと面食らった顔をされたがそれはリリアも同じなのだ。
60歳とがっかりして、でも金属品に映る自分を見ればどう見ても少女で。
もうわけがわからない。
さらに転生者であると名乗ると彼らは瞳がこぼれ落ちんばかりに目を見開かせる。
頭の狂ったやつと思われてしまったかと反省したのだが、別段そうではなかったらしい。
そこまで思い出して、純白のカバーをまとった枕に顔をうずめる。
自分は誰なのだろう。
考えれば考えるほどに記憶の中の人々がぼやけていく。
前世の出来事は鮮明に覚えているはずなのに、もう虐めてきた両親の顔もあんなに愛してくれた王弟の顔もあやふやだ。
しばらく枕にそうしていると、幾分か思考は落ち着いた。
お茶でも欲しいな、と思っていると扉の方からコンコンとした音が聞こえた。
それとともに扉越しでくぐもった女性の声。
「失礼いたします」
聞いたことのない声。ベッドの上で枕を抱きながらも背筋をシャンと伸ばして待っていると、姿を表したのはメイド服を着た可愛らしい人だった。
この屋敷では、女性も執事の服装をしている。だから執事しかいないと思っていたもので、失礼にも驚いてしまった。
リリアのそんな視線など気にもとめないように女性はふわりと笑う。
20代とか、そこらへんだろう。
「朝井 陽奈々と申します。リリア様の侍女、お世話係となりましたので、以後お見知り置きください。」
華麗なお辞儀をする彼女に慌ててリリアも自己紹介をする。
そうはいえども、転生者であるとは言わないけれど。
「リリア・オジュームでございます。えっと……よろしくお願いします」
「ヒナナと気軽に読んでくださいね?リリア様。」
「……ヒナナ、よろしくお願いしますね」
不意にくぅぅ〜という音が鳴った。
リリアのお腹からだ。
恥ずかしさにいたたまれなくなっているとヒナナはクスリと微笑む。
「そうだ。そろそろお昼ご飯ですね。自室でお食べになりますか?それとも食堂で?」
リリアは、この屋敷をよく知らない。というか、屋敷なのか城なのかすら分からない。そして、食堂というものにも行ったことはなかった。
昨日まで検査ということで一応入院していた身なのだから仕方ないのだが。
俄然興味が出てきたリリアは、食い気味で食堂と答える。
花のような侍女――ヒナナに連れてこられたここは、前世の記憶にある王宮ほどとはいかずとも、その3分の2ほどの大きさを誇るところであった。
時間帯によるのかもしれないが、密度だけで言ったらこちらのほうが広いかもしれない。
「リリア様の席はこちらでございます。」
そう言って案内された席に座っていると出てきた食事の中には見知ったものがあった。
転生前は占術・呪術・魔術の世界線のうちのどこかのお嬢様だろうから、と助言してくれた方がいたようだ。この様子だとここの世界線からの転生者ということはないだろう、といったことを聞いた料理長の計らいから、呪術・魔術の世界のご飯を用意してくれたらしい。
思ったよりも転生者だという噂が回っているのだろうか?
(それにしてもおいしいわ!)
悩み事など忘れるほどに、リリアはご飯をしっかりと堪能するのであった。
追記:面白いほどに一人称が地の文に迷い込んでおりましたので修正いたしました。