5. 唯斗の独白もどき
※大幅改変いたしました※
雅様はぐっすりと眠っていた。
本日の風呂ももういいかと1人で納得する。
その間もずっと額の紋様らしきものは主張激しく光っていて、時折、炎や風やと出現してはボンッと音を立てて消えていく。
それにしても先程から雅様のお父上に監視されているのを感じる。
お父上が得意なタイプの占術『今の状況を知る術』だ。
きっと息子が心配なのだろう。
息子がしんどそうではないか、実は悪事を働いているなどはないか。
が、こちらとしては気が気でないのでやめていただきたいと思ったり思わなかったり。
厳しいけれど、その反面しっかりと愛している。
お父上はそういう方だ。
雅様の神能力が発覚したときも、唯斗が話をしたらすぐに行くと言ってくれた。
あのとき実は仕事が終わりそうになかった、とあとから聞いて驚いたのはいつだったか。
──雅様の神能力は、兆候がなかったかといえばそうではなかった。
そろそろ寝たかと部屋に伺うと力尽きたように、毛布もかけずにベッドに倒れていたり。
ふと触れたときなにもないのに額が少々熱くなっていたり。
本格的に神能力が前の持ち主から引き継がれると、力を保持するための体力が十分でない雅は、度々暴走を起こした。
そこで、ほんの少し神能力について調べたところ、力の所持者が死ぬ1,2年前ほどから次へと力の引き継ぎが開始され、そして死んだ数カ月後に完全に力を受け渡すことが分かった。
逆も然りで、死ぬ1,2年前から力は、少しずつ薄れていく。
『この能力を背負う命がこの世界に常に1つ』という、はるか昔雅様に言ったあの言葉は迷信に近いものだったのかもしれない、と思った。そこからはより専門的な話になっていて、素人の唯斗にはよくわからなかったのを覚えている。
「…うぅん」
唯斗の思考を遮断した声の主を見やると、少し頬が紅潮しているのが気にかかった。
これは暴走の副作用だろう。
暴走さえ終わってしまえば数時間ほどでまた回復はするだろうが、見てて辛いことには変わりない。
……いつまでも考えて座りっぱなしではいけない。
雅様のために揃えている看病道具、もとい暴走停止用緊急セットを取りに、一度部屋を出ることにした。
実際使ったことはないし、何処にしまったかさえも忘れてしまっていて、すっかり時間がかかってしまった。気持ち急ぎ足で雅様のもとへ戻る。
少し暗くした部屋。ベッドサイドに近づくと、メモがおいてあるのに気づいた。
雅様のお父上からだ。手紙を『空間を転移する術』したのだろう。
【雅のことをありがとう。今晩のうちに収まると思うから、君が用意してくれる緊急セットを使うことはないだろう。迷惑をかけてしまうが世話をしてやってほしい。】
簡潔にかかれたそれから、やはり監視されていたのだと感じ取る。唯斗は、緊急セットを用意したことは一言も伝えていないし、そもそもついさっき用意に部屋を出たばっかりで普通知る由もないのだ。
なにがあっても良いようにと、緊急セットの説明書をまじまじと読む。
なにかを刺激されたのか一瞬唸り声を漏らした雅様。起きてはいないようで安堵した。
無言の部屋にたまに響く唸り声。
今もなお感じるお父上に監視されている感覚に、下手な動きはできないなと思う。別にする気もないのだが。
雅様の儚すぎるほどに銀白色をしている前髪。それらを丁寧にかき分けると、先程より少し薄くなった紋様の光があらわれる。
神能力の暴走の定義は、自らの力を制御できないこと。だから意図してないタイミングで発動してしまったとしてもそれを操れるなら暴走とは言わない。
だが、コントロールを自由自在にできるようになった雅様の意図していないタイミングだったとしたら暴走の合図。
雅様の力は、あまりにも強すぎる。もの好きたちが調べ上げた神能力についての本を凌駕するほどだ。
それはひとえに暴走を起こしたときの危険度でもある。そして、雅様はそれを抑えるために無意識にエネルギーを使うらしい。だいたいそんなときは副作用状態に陥る。急激な眠気であったりと、薬茶を飲んだときと同じようなものらしい。
改めて雅様を見ると、やはり麗しい見目をしていると思った。この世界線の人間なのかを疑うほどの美しさがある。
額の光は少し落ち着いている気がした。それに唯斗はほぉ、と息を吐く。
この様子だと明日には送り届けられるだろう。
それならばいっそ自分も少し寝てしまおうか、と部屋の隅から小さな椅子と神能力について専門書を引っ張り出してくる唯斗であった。
もう少し話数がいったら章分けします。
来週からは投稿頻度どうなることやら……