4. 雅の暴走
執事たちから逃げた理由を聞かれても答えることはできない。
かといって、面と向かってつまらないと言う勇気はなかった。
それでこの押し問答である。
「やだよ。唯斗がどうにかしてよ」
「神能力を使えるのは雅様だけなんです。この場をどうにかできるのも雅様だけですよ」
「図書館に戻ったらさ……でも執事たちもう図書館にいないかもよ」
フッと唯斗は手に息を吹きかける。
「居ますね。残念でした」
やれやれと言った様子で現実を突きつけてくる唯斗が恨めしい。
唯斗は雅の神能力を抑えることさえもできる力の持ち主だ。
多分魔術師と言われても信じる自信がある。
こんなフッてしただけでできるとか意味わからないし。
魔法並みの占い使えるし、怖いけど仕事はしっかりするし、そのうえ顔もいい。
考えることから逃避し始めた雅は、何をするでもなく唯斗を見つめ続ける。
「なんですか。そんなに人の顔を見ないでください」
「やっぱ唯斗がどうにかしたらいいと思う」
「無理ですね。」
話は繰り返されるといったやつである。
「……あっ、そういえばあなたのお父上が1週間ほどこの世界線から一時的に出るのは御存知ですか?」
「……うん」
「では、その代理として唯斗様がなられるということは?その期間中、私奴が雅様のお世話ををすることも」
「ゴホッガハッ…ゲホッ」
今までの流れからの露骨な話のそらし方に吹きかけた紅茶だったが、爆弾発言により完璧なまでに出してしまった。
唯斗は紅茶に染まったまま、恨みがましい目を向けた。
たまな見せるやんちゃな表情だ。何故か嘆息してしまう。
しかしそれも束の間、こちらを見た唯斗は、その表情を一変目を見開かせる。
なんだ失礼な とも思ったが、それより額が熱い感覚が先立つ。
──これは、神能力がコントロールできなかったころの感覚。
気分高揚など色々引き起こすので危険だと父や唯斗に言い含まれていた。
もしやしなくても能力の暴走だろう。
陸生動物よりはるかに体力のない人間というものが、この能力を持ってしまったのだ。
特に幼く体力のない状態で神能力のすべてを完璧に継いでしまった雅は、暴走を幾度となく体験してきた。
コンディションにもよるが、危害を与えかねないし体力も安定しないしシンプルよくない。
きっと大きすぎる衝撃やらなんやらがいろいろ重ね合った結果だろうけれど、まさかこのタイミングとは。
いよいよ投げやりになった雅はあたりを見渡す。と、唯斗がなにやら複雑に指を絡めているのが目に写った。
なにかの占術だろうか? そんなことを考える間もないまま、雅は宙に浮く。
「そのような紋様が光って目立つ状態で外には出せませんし、今の雅様に転移がうまくできるとも思いませんので」
そうして、雅は客室に連れて行かれたのだった。
◇◆◇◆
【図書館から帰るときに体調不良で倒れていたようだ。
雅の世話ですっかり連絡を忘れていた。
体調が悪いと、神能力が暴走するかもしれないので、下手に動かさずに今晩はここに泊めることにする。
統治者代理のことは直接伝えてあるが、詳しいことはまだである。】
唯斗の力によってものの数秒で紡がれた、嘘に少し誠の混じった手紙。それは、またしても唯斗によって、一瞬で現統治者──雅の父親に送られた。
ちなみに、その力で雅も送れるのではと思ったが、それは難しいらしい。解せぬ。
そのままベッドに突っ込まれた雅。風呂やご飯はどうしてくれるのか。きっと、唯斗に言ったところで軽くあしらわれてしまうだろう。本来なら不敬だというのに、いともたやすく想像できてしまう。
……にしても、そろそろ眠くなってきたか。
暴走の影響が出始めているのだろうか?
急に下を向いた唯斗と、バチッと目があった。
〈「雅様の父上がこちらを監視してらっしゃる可能性もございます〉
心にささやきかけられて、コクリと頷く。
なるほど、それを伝えるためにわざわざ雅の方を向いたようだ。
雅のその緩慢な仕草を確認した唯斗は、おやすみなさいませ、と雅の瞼を優しく落とす。意識はすぐに闇に溶けていった。
唯斗にも秘密が、?
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