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3. 雅の逃げた先

 家主の唯斗よりも先にリビングにつき、我が物顔で専用ソファと化したものに座る雅。


 そのあとから遅れて唯斗がやってきて、雅の斜め前に設置されている椅子に座った。


 唯斗が口を開く。


「なぜこちらに?」

「執事たちの音がしたから」

「それはそれは……しかし、仮にも元執事の私奴の前でよくもそんな」


 そう言って少し険しい顔を見せる唯斗。

(怒ってないくせに)


 実は唯斗が現役執事のときにも度々逃げようとしたことがあった。

 楽しいことならともかく、つまらないものを永遠と学ぶ趣味などないのだ。

 もちろん、脱走の度に成功することなく唯斗に捕まえてられていたのだが、その際に幾度となく叱られている。


 本当に怒っているときは少し眉尻を下げてほほえみながら静かに言葉を発するのだ。


 執事に叱られるとか、身分がどうのこうのとか、そんなものは気にならなかったけれど、あれは誰のどんな叱り方よりも恐ろしかった。


 今の執事はどうだろうか?距離の近い者もいないし特に親身になってのガチギレエンドはない気がする。


 今頃は、いるはずの雅が図書館から消えたと騒いでいるだろう。


 雅からしたらスリルを感じるゲームのような感覚なのだがあちらはそうはいかないだろうし。

 その様を思い浮かべ、クツクツと幼い子供がいたずらに成功したかのように笑う。



 ひとしきり笑い、賢者モードに入った雅はふいに真顔になる。


(──にしても、近頃の科学信仰の世界線を真似する風潮は良くないと思う)


 傍からしたら急にどうしてん!といった思考回路の変わりようは雅の性質である。


 どうしたものかとその問題についてを本格的に案じ始めた雅の一方で、騒ぐ執事の様子を想像したらしい唯斗は、ご愁傷さまとでも言いたげな様子で苦笑いしていた。


 表情を戻した唯斗が、腰を上げる。


 その動作に、雅の思考は目の前へと戻された。


「なにかお飲み物は?」

 執事のときの癖が抜けないのか、わざわざ雅の前にやってきて尋ねる唯斗。

 ひざまずく癖だけが抜けたようでまるで圧迫されているようにも感じる。

 普通に身の危険を感じるのでやめていただきたいところだ。


「唯斗の家の紅茶」


 聞くまでもないはずだ。

 この質問に対する答えも、唯斗が常備しているものも、これしかないというのに。


「了解です。では少々お待ちを」


 国御用達の茶葉を作っている唯斗の家は、国民にも人気の高いブランドの経営をしている。

 どんな成り行きがあったのか、次男の唯斗が飛ばされてきた。


 すでに任期が終わった唯斗は、異世界の文化である''一人暮らし"を始めたのだとか。

 たまに、今の執事たちを見るとふと思うことがある。

 唯斗って案外有能だった……?


 現執事たちは可愛いけれど、とにかくどんくさいのだ。


 マイペースな雅と合わさって、ほぼ毎日一緒に父上に怒られている。

 父は良くも悪くも体裁を重要視しないので、召使がちらほらいる前で思いっきり叱られたことすらもあった。


 その度に、雅が来たら怒られることは少なくなるのではないかとちらりと考えては、それはそれで怖いから今のままでいいかとその考えを打ち消す。


 たまに僕の家に来てますなんてバラされたら様々な方面からどやされること間違いなし。

 唯斗も共犯と言いたいところだが、押しかけているのは雅だから、怒られるのはこちらなことくらい簡単に想像できる。

 そうなってしまっては切実に死なせてくれと願うことしかできない。


 ダンッ!!


「こちらになります」


 思考を遮断するようにものすごい勢いで紅茶のカップを置かれる。

 所作や言葉遣いとは裏腹にフィジカルメンタルともに強くなったものだ。


「ありがとう」

「これを飲んだら図書館に戻るのですよ」

 そうだ。

 そうだった。

 それより大きな問題を考えていたせいですっかり忘れていた雅。


 雅の悲しいうめき声が響いたのだった。 

金曜日くらいまでは毎日投稿です!

そこからはまた考えます…

朝にあげることが多いので、よろしくお願いします…!

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