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 ヴィオラがキールの屋敷に来てから半月が経った。その間、ヴィオラは寝室でキールの姿を見たことがない。一体キールはちゃんと寝ているのだろうかと疑問に思うくらいだった。だが、ある日の朝、寝室でヴィオラはとんでもない光景を目にした。


「キ、キール様ったら今までもソファで寝てらしたの……?」


 ヴィオラの目の前にはソファで静かに寝息を立てているキールの姿がある。きちんと毛布のようなものはかけられているが、足が長いせいか毛布から飛び出している。ソファはキールのサイズに合わせた特注のようだが、それでもやはり成人済みの男性が寝るには窮屈そうに見える。


 ソファで寝るキールのすぐそばまで行き、ヴィオラはキールをまじまじと見つめた。サラサラで少し長めの髪、いつもは鋭い眼光も今は瞼が閉じているが、やはり瞼を閉じた状態でも端正の取れた顔立ちなのがよくわかる。


(すごい、こんなに間近でキール様のお顔をじっくり見ることなんて初めてかも)


 いつもは怖くてあまりキール自身をじっくり見ることができないが、今なら見放題だ。そう思ってじっくりキールの顔を観察していると、キールが身動いてゆっくりと瞼を開いた。美しい緑かかった金色の瞳とばっちりと目が合ってしまう。


「……ヴィオラ?」


 唖然としているキールに、ヴィオラは思わずひっ!と両肩を上げて後ずさる。それからすぐに失礼なことをしてしまったと反省してヴィオラは口を開いた。


「す、すみません、すっかり寝ていらしたので見つめてしまいました」

「あ、ああ……?おはよう、起きていたのか」

「私もついさっき起きたばかりです。それよりもキール様、いつもソファで寝てらしたのですか?」


 ヴィオラの疑問にキールは起き上がりながらそうだと頷く。


「寝室は一緒だが別に何もしないと言っただろう。それに俺は仕事上屋敷へ戻ってこないことも多い。屋敷にいるときはこれでも十分睡眠が取れる」


 さも当然というようなキールに、ヴィオラは珍しく顔を顰めた。


「騎士様であればなおのこときちんとベッドでお休みになるべきです!こちらにお戻りになる時は私がソファに寝ますのでキール様はベッドでお休みになってください!」


 いつもはおとなしいヴィオラが声高らかに宣言する。その姿にキールは圧倒されるが、それはダメだと反論した。


「いくら契約結婚とはいえ妻をソファで寝せるなんて夫としてできない。それにそんなことしてメイドたちに何を言われるか……」


 ヴィオラは屋敷のメイドたちにいたく気に入られている。誰にでも分け隔てなく親切でおっとりしており、いつも何かしら頬張っている姿が小さくてリスのように可愛らしいと皆本心からヴィオラを可愛がっているのだ。キールが仕事で屋敷を空け、戻ってくるたびにヴィオラがどれだけ可愛くて良い主なのかを熱弁してくる。

 そんなメイドたちに気に入られているヴィオラをソファで寝かせると知ったら何を言われるかわかったものではない。


「それならむしろ契約結婚とはいえ夫をソファで寝せる妻の方がよっぽど酷いと思います!これは絶対に譲れません」


 ふんすと鼻息を荒くして言うヴィオラの姿に、思わず可愛いなどと思いながらもこれは崩せなさそうだと渋々キールは降参した。


「……わかった、屋敷で寝る日は事前に伝えるよ」


 こうして、キールが寝室で寝る日はキールがベッド、ヴィオラがソファで寝ることになった。キールは先にソファを占領してしまえばヴィオラが自ずとベッドに行かざるを得ないと思い実行しようとしたが、いかんせんヴィオラの方が上手で先にソファを占領されてしまっている。

 キールのために特注された大きめのソファはヴィオラにとっては大きく、ソファで眠るヴィオラの姿はこじんまりとして可愛らしい。その姿にキールは思わず口角が上がってしまうのだった。


 ベッドに入り込むと、いつもヴィオラが寝ているためヴィオラの匂いがする。実際は寝具はいつも綺麗に洗われているので香りが残っているわけはないはずなのだが、微かにヴィオラの香りがする気がするのだ。それにここにヴィオラがいつも寝ているのだと思うとキールは自分の中に言いようのない熱が湧き上がってきてしまう。


(ベッドの方が返って熟睡できないなんてヴィオラには言えないしな)


 キールはそっとため息をつき、ベッドの中で悶々としながらいつも朝を迎えている。



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