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「キール君をよく思わない人間が不穏な動きをしているようです。もしかするとヴィオラ嬢にも何か仕掛けてくるかもしれません。お二人ともくれぐれも気をつけてください」


 魔力測定が終わり自分たちの屋敷へ戻ってきたヴィオラとキールは、王城でクレストから言われた言葉について考えていた。


「どうしてキール様をよく思わない方がいらっしゃるのでしょうか?大魔獣を倒した英雄なのに……」

「英雄だから、なのだろうな。それに魔力放出の発作が起こっていた頃はそれだけで国にとって危険な存在だと騒ぐ人間も多かった。大魔獣を倒したことで英雄にはなったが、逆にいえば大魔獣がいなくなった今ではもう用済みということかもしれない」


 魔力放出の発作が起こる人間はそれだけで国の脅威になりうる。国にとって問題のある大魔獣を倒してくれたのはありがたいが、もうその大魔獣という問題が存在しないのであれば次は魔力放出の発作を起こすキール自体が問題そのものになるのだ。


「クレスト先生はそれを危惧して俺にヴィオラを紹介してくれた。だが、魔力が安定したことで今度は俺を排除する理由が無くなってしまった」

「それはそれで良いことなのでは?」

「そうは思えない連中なのだろうな。あくまでも今は安定しているだけでまたいつ何がどうなるかわからない、確定しないものはやはり排除するべきだと思っているのだろう。それで慌てて動き出したということなんだろうな」


 大魔獣を倒し国に平和をもたらした存在なのに、大魔獣がいなくなったら危険な存在だと思うなんてあまりにも勝手すぎる。

 魔力の量が異常なのも、魔力放出の発作が起こってしまうのもキールが悪いわけではない。それに魔力放出の発作で一番苦しんでいたのはキール自身だ。そんな人を一方向の視点だけで勝手に危険人物だと排除しようとするなんて。


 普段温厚なヴィオラだがさすがに腹がたったのだろう、ムッとした表情で拳をきつく握りしめている。


「納得いきません。魔力放出の発作で一番苦しんでいらっしゃるのはキール様なのに。発作が落ち着いているのにそれでも危険人物だと判断するなんてあまりにも勝手すぎます」


 キッ!と厳しい表情でそう言うヴィオラを、キールは長めの前髪の間から両目を見開いて見つめていた。小さい小さいリスのようなヴィオラが、拳を握りしめて自分のために怒ってくれている。キールの胸はドクドクと高鳴ってうるさい。


「ヴィオラ、俺のために怒ってくれているのか?」

「当たり前です!キール様は私のために色んなことをしてくださいました。私にできることは少ないですが、こうやって理不尽なことに対して一緒に怒ることはできます。……契約結婚とはいえ、私はキール様の婚約者ですから!」


 両手をぐっと握りしめてキールを見上げ、はっきりとそう言うヴィオラ。そんなヴィオラの両手をキールはいつの間にか自然に掴んでいた。


「ヴィオラ、その契約結婚の話なんだが……」


 キールの言葉にヴィオラは首を傾げる。


「あぁ、いや……今言うことではないな。とにかく、一緒に怒ってくれてありがとう。もしもこのことでヴィオラの身に何か起こるとしたら俺は絶対に許せない。何がなんでもヴィオラのことは俺が守る、だから安心してくれ」


 キールの言葉に今度はヴィオラの胸が高鳴る番だった。キールがどんなことがあっても自分を守ってくれる。今まで疎まれてばかりだった自分を守ろうとしてくれる存在がいる、そのことがどれだけ力強く安心できることか。そう思っただけでヴィオラは胸が熱くなる。


「ありがとうございます」

「いや……」


 嬉しそうに満面の笑みでお礼をするヴィオラを見て、キールは少し頬を赤らめてすぐに目をそらした。


「そういえば、キール様はカイザー様のことを先生と呼んでらっしゃるんですね」


 ふとヴィオラはクレストに魔力測定されていたときのことを思い出した。クレストはキールよりも若そうに見えたがキールにとってはどうやら先生らしい。


「あぁ、俺は小さな頃から先生にお世話になっているからな。生きている人間で魔力放出の発作について詳しく知っているのはこの国で先生くらいだ」


 キールが小さな頃からお世話になっている、となるとクレストは一体いくつなんだろうか?ヴィオラが疑問に思っているとキールはそれに気づいたのだろう、苦笑しながら驚くべきことを口にした。


「あぁ見えて先生は二百年くらいは生きているそうだからな。驚きだろう?王家直属の魔術師ともなると年齢不詳になるんだな」


(に、二百年?あんなに若い見た目をなさってるのに二百年!?)


 もはや年齢不詳とかいうレベルではない。口をあんぐり開けたまま驚くヴィオラを見て、キールは楽しそうに笑った。




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