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「初めまして、王家専属魔術師のクレスト・カイザーと申します」


 ヴィオラとキールの目の前には、明るめのブロンドの髪をゆるく束ね、白いローブを着た若く美しい男性がいる。ヴィオラに挨拶をしたクレストと名乗るその魔術師はキールにヴィオラの存在を紹介した張本人である。


「キール君との生活はどうですか。私が彼にあなたの存在を紹介したのですが、あなたにも一言事前に言うべきだったと今更ですが思っていました。申し訳ありません」

「あ、いえそんな……」


(なんて綺麗な人なのかしら)


 目の前のクレストは見目麗しいという言葉がぴったりの見た目をしており、話し方も所作も美しい。どう見ても若いこの人がこの国一の魔術師だと言うことに驚きを隠せない。ヴィオラがクレストに見とれていると横でキールが少し不機嫌そうにヴィオラを見つめる。それに気づいたクレストはふふ、と静かに笑ってからキールに話しかけた。


「その後魔力放出の発作は起こっていませんか?そろそろ発作の兆候が起こる時期ですが」

「ヴィオラが来てからは発作の兆候が起こっていません。先生の言う通りになりました」

「それならよかった。今日はお二人の魔力量を測りたいと思いこうして来ていただきました。本来であれば私が出向くべきなのですが」

「いえ、先生は王家専属、しかも国一番の魔術師です。お忙しい身なのは重々承知ですので」


 キールがそう言うと、ヴィオラも横で静かに頷く。クレストは二人を見て微笑むと、二人の目の前にふたつの水晶玉を差し出した。


「これを一人ずつ両手で持ってください。これでお二人の魔力を測ります」


 クレストに言われ、キールとヴィオラはそれぞれ両手に水晶玉を持つ。その水晶玉にクレストは手をかざし、両目を瞑った。クレストの周囲に光の粒がキラキラと輝きクレストの髪の毛やローブがふわりと風に浮く。水晶玉の内部がオーロラ色に輝き出し、しばらくして色はゆらゆらと消えクレストが両目を開いて微笑んだ。


「ありがとうございました。思った通り、キール君の魔力がヴィオラ嬢へ移っているようです。キール君の魔力は一般の人間と比べたらまだまだ異常な量ですが、魔力放出の発作は発生しないほどの量にまで落ち着いています」


 クレストの言葉にキールもヴィオラも目を合わせて微笑む。


「それにしてもヴィオラ嬢はどれほど魔力を吸収しても完全に溜まることはないようですね。吸収するスピードと枯渇するスピードがほぼ同じのようだ。これであればキール君の魔力がどれだけ発生し続けようとも魔力放出の発作は起こらないでしょう。それにしても今までよく倒れませんでしたね」


 その言葉にキールが無意識に眉を顰めヴィオラを見つめた。その視線にヴィオラは思わず怯え、それに気づいたキールは慌ててすぐに目をそらす。


「絶えず何かを食べるようにしていたので……」

「今も食べ物を?」

「そういえば、最近は前ほど常に食べていなければいけないということは無くなったかもしれません」


 キールの屋敷に来た当初は常に菓子パンなどを詰め込んだバスケットを手元に置いていたが、最近は常に持ち歩くことはなく、一日のうちに何度か定期的に摂取する程度で落ち着いている。


「キール君の魔力を吸収していることで体にも変化があったのでしょう。ですが今までより食べる量が減るだけで他の人たちと同じような食事形態で大丈夫とまではいかないようですね。できればヴィオラ嬢の状態ももっと改善できればよかったのですが」


 申し訳なさそうに言うクレストの話を聞きながらヴィオラはそういうものなのか、と思っていた。そもそも他の人たちと同じようになれるとは思っていなかったし、何よりこんなに食べ物を摂取する量が減ったこと自体が奇跡のようなものだ。それに美味しいものを食べることは小さい頃から好きなことなので食べること自体は苦にならない。


「以前までは常に何かを食べていなければいけなかったので、今こうして摂取量が減ったことが驚きです。それだけでもじゅうぶんありがたいことなのでカイザー様にもキール様にも感謝しかありません」


 フワッと嬉しそうに微笑んで礼を言うヴィオラに、クレストは両目を見開いてほう、と呟き、キールもまたヴィオラを熱い眼差しで見つめていた。


「それならよかった。キール君にあなたを紹介してよかったです」

「俺も、ヴィオラ嬢と出会えてよかったです。ありがとうございます、先生」


 キールの言葉にヴィオラがほんのり顔を赤らめると、クレストはそれを見て優しく微笑みそれから真剣な顔でキールに話しかけた。


「今後も定期的にお二人の魔力を測りたいと思うので協力をお願いします。それから、二人にはどうしても伝えておかなければいけないことがあるのです」


 いつになく真剣なクレストの様子にキールは嫌な胸騒ぎを感じてしまう。ヴィオラもただならぬ空気にスカートの裾をぎゅっと掴むと、クレストが静かに口を開いた。


「どうやらキール君をよく思わない人間が不穏な動きをしているようなのです」



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