1-6: 料理と勇者
「リリー、そろそろごはんにしよう、今日はだいぶ歩いたし、しばらくゆっくり休もう」
「はい、分かりました、でしたら私がお料理をしましょうか?」
「料理までできるの、リリー?」
「はい!簡単なお料理なら作れます、満人様は何か食べたいお料理ありますか?」
「リリーが作る料理ならなんでも好きよ」
と言ってもこの世界の食べ物をまだ一度も食べてないから慣れるかな、ちなみにガルア様から貰った食材はムルンバードとデビル豚の肉、普通のパン、あとサンドウルフのたまご。知らない生き物ばっかだ、てか普通のパンって何?パンはパンだろ。はぁー、とりあえずリリーが用意したテーブルに食材を出しとこっか。
「この食材たちで何とか出来そう?」
「んっと、そうですね、サンドイッチでどうでしょうか?」
「サンドイッチか、それでいいよ」
「分かりました、では少々お待ちください」
そしてリリーはまた何もない空間からあるものを取り出した。
「フ、フライパン!?」
「はい、フライパンですけど?」
「いやいや、フライパンだぞ?俺の前世で作られた産物だよ」
「そうなんですか?奇遇だね」
「あっさりとしすぎないか?リリーさんよ」
「でもこのフライパンっていう料理器具も実は元々この世界にいないんですよ」
「そうなの?」
「はい、前代の勇者様の出現でいろんな物が開発されました、そのおかげと言いますか、文明が一気に進んだみたいです」
「すごいな、その勇者って」
「ですが魔王討伐した後に、その勇者様の姿も魔王と共に消えた、一説によると勇者様は魔王を殺した後、元の世界に戻ったらしい。でも一部の人はそれを納得できませんでした、いわゆる勇者派の信者ですかね、彼らの主張は例え魔王がいなくなったって、勇者はそのまま国の道具として扱われるべきだと言い張ってました。しかし、魔王討伐の後約百年後の今に経っても勇者様に関する情報は一つさえなかった。とは言え、この世界の住人たちはみんな勇者様の偉業に感謝しています」
「さっき言った、元の世界に戻ったって、その勇者はこの世界の人じゃないの?」
「はい、前代の勇者様は宮廷魔法師長により古代召喚魔法でお呼びした異世界の住人だそうです」
「……まさか地球という世界じゃないよな?」
「たしか記録に残された文献ではそう書かれてました、でもなぜそれを知ってるんですか、満人様?」
「その地球っていう所が俺の前世と同じ場所だから…」
「ほえぇ!?満人様は前代の勇者様と同じ世界の住人だなんて!すごいです!!」
「この世界に地球人がいたとは想像しなかった、でもその勇者は今も行方不明だもんな、そもそもまだ生きているのかも知らないだしね」
「同じ世界の住人としてお会い出来たらいいのにね、残念です」
「っていうかさっきから前代のって言ってたけど、そのあとまた新しい勇者を召喚したりしてたの?」
「いいえ、前代の勇者様を召喚するに当たって代償がでかすぎます。どうやら古代の召喚魔法は魔力だけじゃなく、召喚者の生命力も消費されるらしいです。しかもその時代はまだ《魔力共有》っていう、魔力を他者に与える魔法が開発されておりませんので、宮廷魔法師長が独力で召喚魔法を詠唱しました、その結果は魔法師長が瀕死ほどになった。今になっては魔族と人間がだいぶ仲良くなりました、たまに衝突もありますけど、昔みたいに戦争を起こすような場面がなくなった以上、魔王はもちろんですけど、勇者様みたいに超越な存在も必要とされないでしょ。だから歴史上もただただ一人だけの勇者様だったんですよ。」
「話だけ聞いてもあの宮廷魔法師長に尊敬するわ、世界のために自分を犠牲にするなんて、でもそれはそれでロマンあるな」
「ロマン?」
「いや、なんでもない」
でもまさかリリーの口から地球っていうワードを聞けるとは、もしかしてこの世界に俺とその勇者様以外の地球人がいるかも?もしそうだとしたらやっぱ会いたいよな、それかその勇者様はワンチャンまだ生きてるかも、一応希望を持っとこ。
「話は変わるけど、さっきリリーのあれも魔法なのか?その何もない空間から物を出すっていう」
「そうです、これは《ストレージ》と言って、闇魔法の一種です。この魔法で作成する空間は魔力量とリンクして、魔力量が多いほど入れれるアイテム量も増えます、でも逆に言うと、魔力量が少ない分、置けるアイテム量は限られます。だから魔力量が少ない人や闇魔法の適性を持たない人にとってわざわざこの魔法を使うメリットはあんまりないですね」
「なるほど。そうなってくると適性持たないや魔力量が少ない人がたくさんのアイテムを同時に持ちたい場合ってどうすればいいわけ?」
「そこは満人様の腰に付けているバッグ、アイテムボックスの出番です」
「あそっか、そう思うと便利だね」
「はい、このアイテムボックスも前代勇者様が開発した物だそうです」
「やっぱ勇者の力ってすげぇな、こんな便利な物まで開発できるなんて」
「それはちょっと違うと思います、勇者様に恵まれているのはあくまで魔王に匹敵するほどの純粋な、文字通りの“力”だと思います、でも物開発や研究になると頭脳や多彩な発想が必要じゃないかなって、だから評価すべくのは勇者の力ではなく、勇者様自身の方ですよ」
「たしかにリリーの言った通りだね、悪かった」
「いえいえ、満人様が謝る必要ないんです」
「ささ、料理を続けて頼むわ」
「お料理ならもう完成しましたよ、話している最中に」
「おー、美味そうだねこのサンドイッチ」
見た目や香りも、地球のやつとほとんど変わらない、でも一番な問題は味だね、ぱくっと一口食べた。
「うーん、味もバッチリと美味い、リリーも一緒に食べて」
「お口に合ってよかったです」
「サンドにしてもこの味なら、こっちでの食事も楽しみにできそうだな」
「ちゃんと食材を用意してくれれば、もっともっとおいしいなお料理が作れますよ」
「じゃあ頑張って食材を集めないとね」
「はい!」
てことは戦闘、いや、狩りの知識も早く習得しなくっちゃ。できるかな俺?前世でもせいぜい魚を捌くくらいしかできんっていうのに、いざ自分の手で一つの命を締めるって考えると、どうしても抵抗がある。でもこっちの世界で生き抜くためには、それが普通のことだ。今の俺に足りないのは、覚悟、っていうものかな。