【短編】攻略対象者に贈るモブの取り扱いに対しての嘆願書〜マジで頼みますよ王弟殿下〜
アルバート・オースティン大公様 へ
お願いです。以下の事をお守りください。
ひとつ
変なあだ名で呼ばないでください。
ふたつ
お菓子を与えないでください。
みっつ
不用意に近づかないでください。
よっつ
容姿を褒めないでください。
いつつ
必要以上に触らないでください。
むっつ
贈り物を贈らないでください。
ななつ
悩み事は聞きますが「お前の側は居心地がいい」と言わないでください。
マリエッタ・ブラウン より
私はデカデカと『嘆願書』と書かれたその可愛らしい手紙を読んでから、何度か読み直した後に手紙の内容を了承した事と「食事でもどうだろうか?」と、返事をしたためて部下に手渡した。
答えは遠回しに「ご遠慮致します」だったが、次の日母上の茶会に同席していたマリエッタの横をシレッと陣取って、一緒に楽しいひと時を過ごした。
張り付けた笑顔からは物凄く不満そうな様子が見え隠れしていたが、本人が滅多に食べられないと言っていた甘い餌付け用だった菓子は私から与えていないので問題はないだろう。
嘆願書の内容に触れないように気をつけて過ごした数ヶ月後、更に追加の手紙が届いた。
「可愛い人」と呼ぶのをやめるために私の名前呼びを強要したが、ちゃんと手紙でも守られている事に少し嬉しくなりながらも続きを読み進めて行く。
アルバート様 へ
頼むから、以下の事をお守りください。
ひとつ
愛称で呼ぶのはやめてください。
ふたつ
茶会で毎回隣りに座るのはやめてください。
みっつ
何かと用事を押しつけに会いに来るのはやめてください。
よっつ
無言で見つめて微笑んだり、髪に口付けるのはやめてください。
いつつ
小さな事で褒めて頭を撫でたり、挨拶がわりに手の甲に口付けしたりするのはやめてください。
むっつ
私じゃなくて、父経由で贈り物を贈るのはやめてください。
ななつ
頼むから「お前おもしれぇヤツ」って思わないでください。
マリエッタ・ブラウン より
「はははっ! 『おもしれぇヤツ』って何だそれは。マリエッタのコトか……流石にこころの中で思うまではどうこう出来そうにないが、言わなければ大丈夫だろうか?」
貴族の娘で、王族に寄ってこないどころか避けて通ろうとするヤツがいるか普通。
気軽に接して欲しいとは言ったが、私を躱すための要望や食事の誘いを断るのに「気軽」を使うとは思わなかった。
最初は少しからかうだけのつもりだったんだがな。
直接文句を言うには普段だと周りに人が多くて私の威厳に関わるとの気遣いなのか、こんな変な『嘆願書』など送ってよこして。
嫌われてはいないようだが、中途半端に優しさを見せるくらいなら最初から私の目の届かぬところに隠れていればよかったものを……次はどうしてくれようか?
私は嘆願書の内容の了承の返事と、マリエッタの父親宛にマリエッタと婚約したいむねを記した国王陛下のサイン入りの正式書類を笑顔で部下に手渡した。
あまり悠長にしていると、何だかマリエッタに逃げられそうな気がするからな。
隣りに座るのが駄目なら、今度は膝の上にでも乗せて、菓子を与えるのが駄目なら、いっそのこと菓子をマリエッタに持たせて私の口元まで運ばせて食わせてもらうか。あー、楽しそう。
アルバートとマリエッタの攻防と言う名の愉快な揚げ足取りは、その後ニ人が結婚するまで続いた。
お読みいただき誠にありがとうございました。