いいこと思いついた
僕は学校でいじめを受け始めてから、毎晩悪夢を見るようになった。
夢の内容は、学校で影のようなものに追いかけられる夢。
僕はお化けが嫌いだけど、いじめてくるクラスメイトの方が、よっぽど恐ろしい存在だ。
次の日学校に行くと、相変わらず、机に落書きが。
死ね!ばか!汚い!学校来るな!
もう慣れっこだけど、消すのがめんどくさい。雑巾を濡らしてきて、力一杯拭くが全然取れない。
なんとか落書きを消し終わると同時に、朝のチャイムが鳴る。先生が教室に入ってきた。なんだか先生の表情が暗い。
「よし座れ。みんなに話したいことがある。」
「え?なになに?」
ざわざわし始める。
「落ち着いて聞いてほしい。実は今日休んでいる朝中さんだが、昨日交通事故で亡くなったそうだ。」
「え??」
教室の空気が一瞬で凍りつく。
「詳しいことはまだわかっていないが、とりあえずみんなには伝えておく。」
その死んだと伝えられた女の子は、僕をいじめていたグループのメンバーの一人で、僕は一瞬驚きはしたが特に悲しいとは思わなかった。
しかし、クラスメイトは時間が経つにつれ、泣き始めたり、嘘だろ?と動揺している人などさまざまだった。
その日はさすがに誰もいじめてこなかったが、次の日から死んだ女の子への悲しみや、寂しさを発散するように、いじめがエスカレートしていった。
いじめがエスカレートすると、毎晩見る悪夢が、より鮮明に見えるようになった。
ある日の夜。また同じ夢を見た。今日は今までより鮮明に見える。その場所は、学校の廊下のようだった。その奥に例の影が立ってこちらを見ている。
よく見ると、学生服を着ている?
顔はよく見えないが、髪型がボサボサで、長さもバラバラだ。
いつもは追いかけてくるが、今日はずっとこちらを見たまま突っ立っている。
そして小声で何か言っている。
「君は誰?なにを言っているの?」
すると、次は聞こえる声で確かにその影はこう言った。
「私に教えて」
目が覚める。
今日も相変わらず、いじめられる。
今日は帰り道にある図書館に行く。僕にはいじめられて、我慢できない時に決まって読む本がある。
その本は、あるいじめられっ子が悪ノリで体育大会の応援団の団長にされ、最初は全く上手くいかず周りもバカにしていたが、それでも頑張る姿に周りが感銘を受け始め、最後には応援の部で優勝するという話である。
彼は、この話に憧れを抱いていた。努力していじめを無くす本の中の主人公に。
だから彼は、いじめられてもやり返さなかったし、まだ諦めてはいなかった。
家でこの本を読むと、親に心配されるかもしれないと、いつも借りずに図書館で読んでいた。
今日も30分ほどで読み終え、本棚に戻す。
しかし、戻す時にグチャっと言う音が聞こえた。
ページが折り曲がったのでは?と心配になった僕はもう一度本を抜き取る。すると封筒のようなものが出てきたのだった。
彼はいけないと思いつつも、その手紙の中身が気になって、読もうとするが
「ごめんね。そろそろ閉館の時間です」
「あ、ごめんなさい。」
僕は持っていた封筒を思わずカバンの中に入れ、そのまま持って帰ってしまった。
帰宅して、そのまま一直線に自分の部屋に入る。
持って帰ってきた手紙をカバンから取り出し机の上に置いた。僕は悩む。
勝手に誰かの手紙を読もうとすることなど、いけないことだとわかっていた。
でも、この好奇心を抑えることはできない。
ゆっくりと封筒を開ける。すると中には折り畳まれた紙が2枚入っていた。その一枚を取り出し、広げる。
その紙には「殺してやる」と大量に書かれていた。
「うわ、」
驚いて思わずその紙を戻し閉じる。そのまま封筒に戻し机の引き出しにしまった。
その日の夜、いつもと同じ悪夢。
ただ今日はいつもと違う。影が、目の前に立っていたのだった。
顔は今までの中でいちばん鮮明に見えた。
相変わらずボサボサの髪型、左目は腫れていて、
頬にはバカと書かれている。
よく見ると、僕と同じ歳ぐらいの女の子だった。
僕はとっさに聞く。
「なぜいつも僕を追いかけているの?」
「きみ、手紙見つけたでしょ」
「あ、あれは君の手紙なの?」
「そうだよ。中身読んだ?」
「殺してやるって大量に書いてあったやつ?」
「ふふふ、そんなことも書いたっけ。それじゃなくて、もうひとつ入ってたでしょ。」
「ごめん。怖くて読む前に閉じちゃった。」
「君、いつからこの夢を見るようになったか覚えてる?」
「えっと。いじめられるようになってからかな。
長い間いじめられているから、あんまりハッキリ覚えてない。」
「そう。君は、まだ優しいからね。もしいじめられてどうしても我慢できなくなった時は、手紙を読んで。」
「君は何者なの?制服着てるってことは学生?
ここはどこなの?」
「君が知るにはまだ早いよ。最後にこれだけは言わせて。
頑張らなくてもいいんだよ。許そうとしなくても。君は間違っていない。だから、今何が辛いのか、悲しいのか、私に教えて?
じゃあね」
目が覚める。
今日は特に、鮮明に夢を覚えている。
あの女の子は誰なんだろう。気になりながらも、
今日も、何も無いように両親に振舞って元気に学校に行く。
それから数日後。学校は夏休みに入った。
周りは友達と遊ぶ約束をしているけど、僕は友達が誰もいない。
あの日、夢の中で女の子と話して以来、夢は見ていない。未だに、彼女が誰なのかは分からない。
夏休みは、学校に行かなくてもいいから気が楽だ。夏休みが終わったらいじめがなくなっていないかな、なんて思ったりもする。
僕は夏休みのほとんどを図書館ですごし、宿題をしたり、本を読んだりした。
夏休みも終盤に差し掛かった頃、地元で夏祭りがあるというチラシを見つけ、今年もそんな時期かと思う。去年も開催されているが、友達のいないいじめられっ子の僕は一緒に行く人はいなかった。もちろん今年も。
しかし、両親が友達と言ってきたら?と言ってくるので心配をかけまいと、友達と行くふりをして一人で祭りに行く。
去年とおんなじだ。
もらったお金を使ってないと、親に不思議がられるので、好きなリンゴ飴とフランクフルトを買って、いじめっ子に見つからないように、お祭りの会場から離れた場所に座り、ただ一人食べるのだった。
2度目の一人ぼっちな夏祭り。夢の中で謎の女の子に言われたセリフを思い出す。
思い出すと少し泣きそうになって、そして泣くまいと空を見上げる。
実は女の子に言われた言葉が、僕の心の支えになっていたのだ。
そして、僕の心の中に今まで浮かばなかった気持ちが浮かぶ。
「僕は悪くないよね。僕のせいじゃないよね。」
その日の夜、僕は久しぶりに悪夢を見た。
また目の前に、謎の女の子が。
「久しぶり。」
今日は僕から挨拶をする。
「久しぶりだね。元気だった?」
「相変わらずいじめられてる。何にも変わってないよ」
「きみはどうしていじめられてもやり返さないの?」
「僕には好きな本があるんだ。その主人公は元々ひどいいじめにあっていたんだけど、努力して、周りを見返して、いじめを無くしたんだ。僕もそんな人間になりたい。」
「ふふふ。それは素敵だね。」
「そうだろ。」
「じゃあ、君は一生苦しむことになね。」
「え?」
「君は、これから一生自分を嫌いなまま生きていくことになる。」
「どうして?」
「ふふふ。わからないの?私の言っている意味が。」
「わからない。」
「いじめられすぎたんだね。可哀想に。」
「君に何がわかる。急に僕の前に現れて。」
「私にしかわからないんだよ。君の気持ちは。」
「どういうこと?」
「夏休み前に、クラスメイトの子が交通事故で死んだでしょ。」
「どうしてそれを?」
「私は知ってるんだよ。何もかも。そして、どうして彼女が事故で死んだのかもね。」
「…………。」
急に僕は怖くなって、なにも言えなくなる。
「まぁいい。いずれわかるよ。君が何を望んでいるのかもね。」
目が覚める
今日は夢の中で女の子が話していた言葉の意味が気になって仕方がない。
いじめっ子がいつものように声をかけてくる。
「おい!」
「……。」
「おい!!無視するな!」
「……。あ、ごめん。ぼーっとしてて」
「俺様を無視するとは、いい度胸だ。
こうしてやるよ。」
そう言って、窓側に置いてある花瓶を手に取り頭の上で逆さまにする。花瓶の中のミスが頭にかかる。
「ははは。びしょ濡れだ。」
「………。」
いつもと変わらない。いつも通り。
大丈夫だ。いつか、見返せる。
「何反抗的な目してんだ!!」
その言葉と同時に、右手で大振りのビンタ。
「パン!!」
いたい。
「先生が来る前に着替えろ。もちろん俺たちがやったことは内緒だぞ。じゃないと、わかるよな??」
「もちろん、言わないよ。。」
学校が終わった。今日はいつもより酷かった。
我慢ができそうにない。帰りに図書館でいつものあの本を読もう。
図書館に入り、忍足で館内を見回す。よしいじめっ子はいない。いつもの本を取ろうとした時
後ろから声をかけられる。
「おい!」
振り返るとそこにはいじめっ子たちがいた。
「お前、なんの本読もうとしてんの?」
「いや、たまたま気になっただけで、決まった本はないよ。」
「嘘つくな、一直線にその本を取ろうとしただろ。」
僕はドキりとした。結構見られてたんだ。
いじめっ子たちの一人が、僕がいつも読む本をとり、裏表紙のあらすじを読む。
「ははは。これいじめられっ子の話じゃん。
なに?この本読んで勇気づけられてんの?」
「そう言うわけじゃないよ。」
泣きそうだ。
「お前この本がどんな本か教えてくれよ。」
「いや、、、」
「教えろって言ってんだよ!!!」
いじめっ子たちのリーダーが怒鳴る。
すると後ろから司書がやってきた。
「君たち何やってるの?ここ図書館なのよ。」
いじめっ子は態度を180度かえ急に大人ぶった態度で言う。
「ごめんなさい。好きな本の話をしていたら、盛り上がってしまって。」
「でも君怒鳴ってたように見えたけど」
「全然そんなことないです。だよな?」
僕に目線を向けている。僕は一瞬いじめられていることを話そうと思った。でもこれまで我慢してきたことが台無しになる。
「うん。本当にテンションあがっちゃっただけで。
ごめんなさい。もう行きますね。」
こうやりとりし、いじめっ子と共に図書館を出た。
そのまま、図書館裏の人気のない場所へ連れてかれる。
「で?どう言う話だ。」
「えっと。。いじめられっ子が、みんなに悪ノリで体育大会の応援団長にされるんだ。
最初はみんなバカにしているけど、いじめられっ子は諦めず頑張って、いじめっ子たちを見返すっていう話なんだ。」
本のあらすじを聞いたあと、いじめっ子たちはお互いの顔を見合わせたあと、大笑いをした。
「あははは!!!
なにそればっかじゃねぇの??」
「え?」
「そんな作り話に勇気づけられてんの?」
「でも、、、、」
「でももクソもねぇよ!!!
もし同じように見返したいと思ってるんなら残念だが、そもそもいじめられっ子は応援団長になれない。俺たちがならせないからな。
そして、もしなっても俺たちが邪魔し続けてやる。」
「それでも。。」
「それでもなんだ?お前が読んでる本の話は、スムーズに進んでないか?なぜか教えてやろうか。
作り話だからだよ。
現実は、お前は応援団長にもなれないし、見返すこともできない。卒業してもお前のこと追いかけて邪魔してやるからな。」
「…………。」
もう言い返すこともできない。
確かに僕は甘かったと思った。というか気づいていた。
こんなにうまく行くわけがないのに、自分を誤魔化していた。
僕がやり返しをしない理由は、やり返す勇気がないからだ。決して努力で見返したいからではない。
でも希望があるふりをすることでしか、僕は自分を保てなかった。
「わかったか?お前はもう終わりなんだよ。
じゃあな。ごみ!」
「まて!ずっと聞きたいと思ってたんだ!
どうして僕なんだ?僕がいじめられなきゃいけないんだ!」
悔しくて、思わず聞いてしまった。ずっと怖くて聞けなかったこと。
すると、いじめっ子のリーダーは
「ははは!」と大笑いしたあと言った。
「理由なんてねぇよ。気まぐれだよ。
だからお前が存在してる限りいじめは無くならない。残念だったな!!ははは!!」
そう言っていじめっ子は帰っていった。
わかっていたことだったけど、すごく悲しかった。涙が止まらないなか思う。
どうして僕が?僕が何か悪いことをした?
家に着くと、
遅いわね。なにをしていたの?
と母が声をかけてくる。
僕は、とうとう言ってやろうと思った。今までされてきたこと全部。
でも、勇気がなくてごめん、本読んでたら遅くなったと作り笑いで誤魔化し、そのまま自分の部屋に戻った。
部屋に戻ると、そのまま疲れて眠ってしまった。
そしてまたいつもの夢を見る。
目の前に立つ謎の女の子がこっちを見て笑っている。
「なにがおかしいの?」
「ね、言ったでしょ?」
「うん確かに。」
「これで君の計画は終わりだよ。」
「うん。もう、死のうかな。
不思議と笑みがこぼれた。
もうどうでもいいんだ。」
「昔の私と一緒だ。」
「え?」
「まだ、手紙読んでないでしょ」
「あ、忘れてた。」
「夢が覚めたら、その手紙を読んで。
そして決めて。どうしたいか。それで死んだら仕方ないよ。」
「わかった。多分君とこうやって会うのも最後だね。」
「そうかもね。私、久しぶりに誰かとお話しできて楽しかった。」
「最後に聞きたいことがあるんだけど。」
「なに?」
「君の名前は?」
「ふふふ。最後に自己紹介か
私の名前は鈴原 真央。
君の名前は?」
「僕は、吉村 大洋」
目が覚める。
今日は学校に行きたくないと母に言うと、母が何かを察して、分かったと了承してくれた。
もしかしたら母は僕がいじめられていることに気づいていたのかもしれない。
机の引き出しにしまっておいた手紙を取り出す。
相変わらず、殺してやると書かれている手紙と、もう一枚折り畳まれた紙が入っている。
開けると、文章が書いてある。
私のこの手紙を読んでいると言うことは、少なからずあなたは、この本を手に取った人だね。
私は今、学校でいじめを受けています。それはとても酷いいじめで、花瓶の水を頭からかけられたり、机に落書きされたり、椅子がなかったり、靴が捨てられたり、トイレに閉じ込められたりもしています。
毎日毎日つらくて、死んでやろうと何度も思いました。そんな時、たまたまこの本を見つけたのです。
いじめられっ子が悪ノリで応援団長に推薦され、最初はみんなにバカにされるけど、徐々に周りを見返していくって言う話。
私もこうなりたいなって思いました。
それからは、いじめられても我慢して、見返す日をずっと待っていたのです。
しかしそのチャンスは意外と早く訪れました。
ある日体育大会の応援団を決めようとなって、私は本の話と同じように応援団長になりたくて立候補しようとしたけどそんな勇気はなくて、ただなにも言えず座っていました。すると私をいじめているグループの一人が、私を悪ノリで応援団長に推薦してきたのです。
私はチャンスだと思い、その推薦を受け入れることにしました。
毎日一生懸命練習しました。確かに、いじめっ子にバカにされたり笑われたりもするけど、応援してくれる人もいて、それなりに充実していました。
そして本番の日はあっという間にきました。
体育大会は、午前から午後にかけて競技をし、体育大会の最後のプログラムが応援合戦でした。
ついに応援合戦。応援団の衣装に着替えるために更衣室に行きロッカーを開けると、私の衣装がズタボロに引き裂かれていました。
それは明らかにハサミやカッターのようなもので引き裂かれたあとでした。
私は頭が真っ白になりました。それと同時に誰がやったのかと思いました。更衣室には応援団のメンバーしか入ることはできません。いじめっ子は誰も応援団ではありません。じゃあ、これは誰の仕業?
とにかくどうにかしないとと思い、先生の元へ急ぎました。そして先生に相談し、体操服のまま応援をすることになりました。
衣装を着て応援することを楽しみにしていたけど、そうも言ってられないと全力で応援を披露しました。
しかし残念ながら、競技の部、応援の部ともに負けてしまいました。
自分だけ体操服だったことや、負けてしまったことが恥ずかしくて、体育大会が終わったあと、見にきてくれた親の元へはいけませんでした。
体育大会が終わった次の日から、普通に学校がありました。
相変わらずいじめは無くなりません。体操服で応援したことをいじめっ子に言われ続け、先生は犯人を探そうとせず、私は嫌になりました。
誰かわからなかったけど、多分衣装をズタボロにしたのは、いじめっ子の誰かでしょう。そのうちの誰かが、応援団のメンバーにやらせたのかもしれません。もう、誰にいじめられているかもわからないのです。
もう疲れました。結局なにも変わりませんでした。緊張していて、それどころではなかったけど、終わってみると、衣装を着れなかったことが悔しくなってきました。
私がなにをしました?
どうして私なのですか?
見返すって言うけど、そのためになぜ被害者の私が努力しないといけないの?ただでさえ嫌な思いをしてるのに。
その時気付きました。私は誤魔化していたと。
自分のせいにして自分を不幸にして、それで我慢していたのだと。
このいじめの原因や解決策は私にはありません。
いじめっ子が存在する限り、続くのです。だから死にます。
この手紙を見つけてくれたあなたへ。
あなただけは、私のことを忘れないでください。
誰にも言えなかった苦しみを悲しみを忘れないでいてください。
私だって死にたくない。生きていたいよ。
でも誰も見てくれない。
さようなら私。
鈴原 真央
僕は、泣きながら手紙を読み終えました。
夢の中に出てくる彼女は、僕と同じいじめられっ子で、この本を支えに生きていたのだ。
そして、そんな作られた物語のようにはならないと思い知らされた。
僕は、もう一度だけ彼女に会いたいとそう強く思いました。
僕は手紙を読み終えたあと、すぐ図書館に行っていつも読んでいた例の本を借りました。帰宅し、自分の部屋に引きこもって、その本を改めて読みました。
「バカバカしい。」
そう思いました。
そしてその日の夜、また夢を見たのです。
「あれ?またきたの?」
「手紙読んだよ。鈴原さん、君の書いた手紙だったんだね。そして、僕の夢にあなたが出てくるようになったのは、例の本を読み始めたはからだ。」
聞きたいことがあるんだ。どうしてあの手紙を書いたの?」
「私は自分の正直な気持ちを、いつか誰かに読んでもらえるようにと手紙を書いたの。
君が呼んでくれて、嬉しいよ。」
「どうして、あの本の後ろに隠したの?」
「私と同じような人に手紙読んでほしいと思ったからだよ。
ただ、分かりやすすぎてもつまらない。考えた結果あの本の後ろに隠したの。
あの本を読む人は、きっと何か悩んでるだろうなって。そういう人が、たまたまこの手紙を見つけて、元気出してくれたらいいなって思ったの。」
「あの、殺したいと書かれた紙は?」
「昔、都市伝説であったの。自分の成し遂げたかったことを紙に書いておくと、死んだあとその目的のために現世に戻ってこれるって。
幽霊になって、私をいじめた人たちを殺したいと思ったの。
結果、殺すには霊力が足りなくて、君と話す程度しかできないけどね。」
「でも。君交通事故を起こしたよね。
先日クラスメイトが死んだ交通事故は君が起こしたんでしょ。」
「ふふふ。私一人ではそんなことできないよ。
君、その女の子に死んでほしいと願ったでしょ。」
「………。」
「私はあくまで、あなたの殺したいと言う気持ちに上乗せして、女の子を呪っただけだよ。
あの事故の原因は君の殺したいと言う気持ちそのものなんだ。
君は、今まで自分を変えることでいじめを無くそうとしていたから気づかなかったかもしれないけど、いじめっ子を殺したいとずっと思っていたんじゃない?」
「それは………。」
「わかったでしょ?君は悪くないんだよ。
私が力を貸してあげるよ。一緒にいじめっ子を殺さないか?」
「そんなことができるの?」
「もちろん。君の殺したいと言う気持ちに私の呪いを上乗せさせることで、いじめっ子を殺すことができる。」
「でも。。。それで殺すのは違うんじゃないか。」
「また?あとどれだけ君は我慢すれば気が済むの?私はこうして現世に戻ってこれたけど、結局私をいじめたいじめっ子は殺せなかったんだよ。
君はラッキーじゃないか。復習できるんだよ。」
「確かにそれはラッキーだ。でも、それで僕が罪悪感を感じることなんてないんだ。君も同じだよ。本当に殺したいのかい?それで気が済むのかい?」
「うるさい!私はずっと一人だったんだ。
そうするしかないじゃないか。
あの頃に戻ってやり直すこともできない。やり直してもまたいじめられるよきっと。」
「そうだけど、僕は誰も殺したくない。」
「………。
わからずやだね。まだ夢見てる。いじめられすぎたんだね。かわいそうに。」
「いじめられすぎて、見失ってるのは君の方だ。」
「違うよ。君だ。」
目が覚める。
夢と現実の狭間で意識がぼーっとしている。
とりあえず、今日は学校に行ってみよう。準備をするために体を起こそうとするが何故か力が入らない。
すると、急に自分の意思とは関係なく体が起き上がり、ベットから立ち上がった。
そのまま、机の引き出しを開け、工作用のハサミを手に取る。
「なんだこれ。」
「黙って見てな。」
それは真央の声。
階段を降り、リビングにいく
おはようと両親が声をかけてきた。
嫌な予感がする。
「やめろ」と強く念じるが動きが止まらない。
するとそのまま一直線に母の元へ行き、ハサミを振りかぶり、母の首元へ刺した。
は、、、。一瞬の出来事。
「こいつはお前がいじめられていることを知っていながら見て見ぬ振りをしていた。だから死ぬべきだ。」
首元に刺したハサミを抜く。同時に血飛沫が天井まで勢いよく飛ぶ。
母は首元を押さえ、膝から崩れ落ちる。
「あ、、あえ、」
声にならないうめき声をあげ床に倒れた。
「おい、なにをした。」
父がこっちへくる。
「おい!まさえ!
大洋、なにをした!!」
「こうなったのは誰のせいだ。
この父親も傍観者だ。」
真央の声が聞こえる。すると横から父の脇腹にハサミを突き刺した。
「おい。やめてくれ!やめろ!!!!」
どれだけ叫んでも体の動きは止まらない。
倒れた父の上に馬乗りになり、腹部を刺して、抜いて、刺して、抜いて、刺して、抜いて、刺して、抜いて。
大量の血が抜くたびに溢れ、父は白目で泡を吹いている。
「おもしろ!」
真央はそう呟く。
3分ほど繰り返し、急に痙攣したあと、父の反応はなくなった。
死んだ父親の上に馬乗りのまま。
なにが起きたかも理解できないうちに、、、。
死んだ。二人とも。
「さて、次は主犯格だ。」
血だらけのまま、勝手に体が動き家を後にする。
登下校で使う道は田んぼ道で、人はほとんど通らない。途中で誰にも見つかることなく、学校に着いてしまった。
教室に入ると同時に、クラスメイトの視線が集まる。
僕は体を止めようと力を入れるが、全く止まらない。
そのままいじめっ子たちのメンバーの元へ。
「あ?お前なんだ。え?お前血?え?」
手を大きく振りかぶり、頭頂部に力一杯ハサミを突き刺す。
同時に口から血が噴き出す。
周りのいじめっ子も一瞬なにが起きたか分からない。
刺したハサミを抜き、次は首元へ横から
「ふぉー!最高!」
真央が頭の中でそう叫ぶ。
次はお腹、お腹お腹お腹お腹お腹お腹お腹お腹お腹 血が出る出る出る。
ダラーんと紐のようなものが溢れる。
僕は止めようと手に意識を集中するが止まらない。
軽く痙攣をしながら、血だらけのそいつは床に倒れ込んだ。
それと同時に、教室にいる生徒が悲鳴。
机を薙ぎ倒しながら、外へ出ようとしている。
僕はいじめっ子が逃げられないように、次のメンバーの手を握って、左目にハサミを刺す。
「ぎゃ!!!!」
ハサミを抜くと、目玉がダラーっと溢れる。
同じ箇所にもう一度、力いっぱい刺す。
口や鼻から血が溢れて、そのまま床に倒れる。
「次は誰かな。誰を殺そうか。」
あ、見つけた。あいつだ。いじめっ子の主犯格。
リーダー。
ハサミを握り直し、そいつに向かって全速力で走る。
逃げるリーダー。
それを追いかける僕。
餌を見つけたチーターのように。
もう逃さない。
ここで終わらせる。
ハサミをそいつに向けて投げる。
当たったが、ノーダメージ。
追いかける。
廊下をずっと走って、とうとう反対側の行き止まりへ。
ハサミがない。素手でやるしかない。拳を握り構える。
いじめっ子の主犯格も拳を握り、こちらに構える。
先制攻撃はいじめっ子。大振りで右拳が頬に直撃。奥歯が砕けたのがわかる。
僕も右手を振りかざし相手の顔面を狙って振り落とす。頬に直撃。
左、足、右。
殴って、殴られ、蹴って蹴られ。
殺してやる。殺してやる。
僕の右ストレートが鳩尾に直撃。いじめっ子は膝から崩れ落ちた。
顔面を蹴り上げ、馬乗りに。
顔面を殴る殴る殴る。
もう相手はガードすることもできない。
ここで殺す。ここで終わらせる。
殴る殴る。
意識朦朧とする中、とにかく殴り続けた。
ボコボコに腫れ、誰かもわからないいじめっ子の顔を見て、今気づく。
これは真央の意思ではない。とっくの前に僕が自分の意思で殴っていたことに。
最後の一発。これで終わり。両手を組んで大きく振りかぶり、顔面に向けて精一杯振り落とす。
眉間に直撃し、凹んだような感覚を覚えた。
もうそいつはどう見ても呼吸をしていなかった。
勝った。勝った。
これで終わる。
これで死ねる。笑みが溢れる。
立ち上がり、ふらふらになりながら、落としたハサミをとりにいく。
その間、いろんなことが頭を駆け巡る。
真央のこと、家族のこと、一人ぼっちの夏休み。図書館。
ハサミを拾い、自分の首元目掛けて突き刺す。
同じ力でハサミを抜き、後ろに倒れ込んだ。
最後の景色は学校の天井か。清々しい。
復讐も終え、最後に心の中に浮かぶ。
「真央。やったよ。君の分まで殺しておいたよ。僕もそっちにいくよ。」
「ありがとう。」
ここで速報が入ってきました。
今朝午前9時ごろ、〇〇県〇〇市の中学校で、生徒3人が刺殺される事件が発生しました。
被害者はそれぞれ病院に搬送されましたが、すでに死亡が確認されております。
犯人は被害者と同じ中学校の生徒で、全身が血だらけの状態で教室に入ってきて、突然一人の生徒の頭部をハサミで刺して殺したあと、立て続けに他の生徒の目や腹部を刺したとみられています。
犯人は、廊下で気絶した状態で倒れており、意識が戻り次第事情を聞くと見られています。現場からは以上です。
END