紅の章 第九十四話 姫の恋人?
「どうした?」
様子を見守る相馬たちに男の声がかかった。
相馬と珠利は振り返ると眉間に皺を寄せ、困ったような視線を向ける。
「ああ、国王騎士団長と光騎士団長」
どこかよそ行きの名前で呼んでから、そのまま美珠と祥伽へと視線を戻す。
騎士団長二人は視線の先にいるこの国の姫と他国の王子という思いがけない組み合わせを見てきょとんとした顔で顔を見合わせた。
「何を話してる?」
「さあ、わかんない。なんだろうねえ」
軽く流す相馬だったが、ポットを覗き込む二人の様子をみて首をかしげた。
「あれ? まさか、お茶の問題? 外交的な話とかじゃなくて!」
相馬が体を乗り出して様子を窺うと珠利が手を叩いた。
「分った! 薄いっていう話じゃないの? 相馬のお茶、本気で味ないから。あの王子様びっくりしたんでしょう。確かにあの味を国賓に出すとか戦争行為だよね」
戦争行為ときいて光東は救いの手を差し伸べようとした。
「あっじゃあ、俺、淹れましょうか。昔、家を手伝ってたとき、勉強したから」
「いいよ、もう一回行って来る!」
けれど相馬は光東の提案を断り、思い切って近寄っていった。
相馬の影に気づくと二人は残念そうな顔で相馬を迎えた。
「え? 何? お茶になにか問題でも?」
「これじゃあ、なあ」
「相馬ちゃん、正直に言えばよかったわね。ずっと、我慢してたんだけど、もう少しお茶の葉を入れて頂戴」
「ええ? 何で。色出てんじゃん」
「色の問題じゃない。飲んでみろ」
相馬は美珠のお茶を受け取ると一口口をつけた。
お湯の温かさと少しお茶の味が口の中に広がったが、香りや旨みが皆無なことに相馬は初めて気づかされた。
「あ、え~何これ。本当に不味い。やっばいなあ。何、お茶の葉が少ないってこと」
「お前、美珠に吹っ飛ばされて気絶してるわ、お茶も下手だわで、執事つとまるのか?」
なんでも理論的に考えてしまう相馬を見て祥伽は見下したように言葉を浴びせた。
そしてその言葉を聞いて相馬の眉間に深い皺が刻まれてゆく。
尚も祥伽は追い討ちをかけた。
「女一人も守れないのに、そばにいても邪魔なだけだ」
「祥伽!」
美珠が止めると祥伽はため息をついて、首を振った。
まだ何かいいたげに。
けれど前の相馬の額には先ほど騎士団長を前にした祥伽と変わらないほどの血管が浮き出ていた。
「相馬ちゃん、この人はこういう人だからね。おちついて、ね?」
「甘やかすな。言ってやらないと分からないだろう。全く、跡取りの側近がこれじゃあ思いやられるな。それもお前姫の恋人なんだろ?」
最後の質問に相馬の顔に疑問符が浮かんだ、そのせいでまた眉間の皺は深くなった。
美珠はそういえばそんなことにしていたことを思い出して、改定しようとした。
自分の恋人は強くて格好よくて頭だって良いと。
けれどそういえばさらに相馬を傷つけるような気がして慌てて飲み込み、相馬の背を叩く。
すると祥伽はもう一度深いため息をついて背を向けた。
「姫も姫なら執事も執事だ。全くなんだこの国は!」