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紅の章 第八十六話 商人の見習い

「あら! まああ!」

 初音は背伸びをして棚から物を下ろしていたが、美珠の姿を見つけると駆け寄ってきた。

「ご無事でお戻りになられたとは伺っておりましたが」

「ご迷惑をかけたのでしょう? 今日はそのお礼に。初音ちゃんのお父様にもお礼がいいたくて」

「まあ、お気遣いいりませんよ! 私達が勝手にしたことですもの。兎に角おあがり下さい」

 奥に通されると別室で納品伝票を眺めていたこの国随一の商家の主は慌てて立ち上がり、娘とそう年の変わらぬ姫を迎え入れた。

「美珠様!」

「先日は大変お世話になったようで。無事に帰ることが出来ました。有難うございます」

「いえ、いえ、王族をお助けするのが国民としての義務ですからな」

そういいながら主は丸い体を俊敏に動かして美珠や相馬を座るように進めた。

 今日から護衛の任につく珠利は静かに後ろに立っていた。

「今日は私がご迷惑をかけたことをお詫びしたかったのと、あと、お願いがあって」

「はて、何でしょうか」

「今度、秦奈国から我が父の妹、祥子様がお戻りになられます。その際の宴の私の衣装と、この相馬の衣装。あと、その際記念品としてご用意するものなど相談に乗って欲しくて。もちろん、これは国王、教皇からの依頼です」

 すると父と娘は似た輪郭の顔を見合わせて頷いた。

 思わぬ王室からの仕事に喜んでいるようだった。

「人数や、金額などは、この相馬がそちらの方と相談させていただきます」

「ありがとうございます。いやはや、しかし、美珠様は粋な計らいをしてくださいますな」

「以前にも力になっていただいて、今回も。言い尽くせない恩があります」

「そんな風に思っていただかなくても。結構ですよ。いつかこの商家が重く感じられては困りますから。ただ我々も美珠様は自分達に近い存在だと勝手に思ってお手伝いしているだけなのですから」

「ありがとうございます」

 美珠は礼を言うと立ち上がった。

 すると初音が声をかけた。

「もう、お城へお戻りに?」

「いいえ。この後は気の重くなる建築家の方の家へ行くんです」



「行く必要ないんじゃないの? 美珠様を軽視している奴なんてさ」

「だって、工事止まってるんでしょ?」

「まあ、それが美珠様の性格だから仕方ないんじゃない?」

 通ってゆく道で幼馴染達は会話していたが、美珠はふと川を見つめた。

 都を歩く人々は誰一人としてここで美珠が行方不明になったことなど知りもしないのだろう。

 まさか、こんな普通の場所で大国の姫が襲われたなど……

 けれど自分はここで初めての友達に出会った。

(祥伽)

 思い返すと今はないきつい赤い瞳が懐かしく思えた。

 性格が全く合わない人間だったが、言って欲しいことが分る人だった。

(今、どこで何してるのかな、ちゃんと戻れたのかしら。ちゃんと謝った?)

「どうしたの?」

「うんん」

 珠利の声に首を振ると、気の重い建築士の家へと向かった。


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