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紅の章 第八十五話 朝の出来事

 朝食を取ってからいつものように両親と自分の付き人たちが今日の予定を確認するために現れた。

 そこには誇らしげな珠利の姿があった。

「おはようございます」

 美珠が挨拶すると男達に混じって珠利の声。

 美珠はそんな珠利に笑顔を向けると珠利も美珠にこれ以上ない笑みを美珠に向けて後ろに立つ。

「あら、聖斗、兜はどうしたの?」

 教皇の言葉に聖斗は恥ずかしそうに頭を掻いた。

 いつもかぶる銀の兜がなくてどこか気恥ずかしかったのだろう。

「少し、修理が必要でしたので、出しました。国明の話ですと暫く我々が出撃することもなさそうですし。ちょっと整備もかねて」

「修理? 何かあったのですか?」

 教皇の心配そうな問いかけに首を振る聖斗を見て美珠は思い出した。

「! そういえば!」

 慌てて立ち上がると机に乗っていた茶器の中のお茶が机に毀れた。

 

 騎士団長たちは突然顔色を変えた美珠に一瞬ひく。

「あの馬鹿が聖斗さんを狙ったんでした! お怪我はありませんでしたか? まさか、どこかお怪我でも! 普通にされてたので忘れていました!」

 美珠の勢いに押され聖斗は数歩下がった。

「いえ。美珠様が軌道を反らしてくださったので兜が凹んだだけで」

「よかった。あの馬鹿は本当に敵も味方もなく撃つんです。折角助けてくれた魔希君にだって!」

「それは許せませんね。しかし、国明の話ではお守りにつれられ強制送還されたと聞きましたが」

 魔央の言葉に美珠は深く頷いた。

「ええ、秦奈国のどこぞの貴族のボンらしいです。結局、お別れも言えてませんし。でも、友達なんです」

「美珠、お掛けなさいな」

「あ、はい」

 母は美珠を席につかせると、娘の瞳を見て聞く姿勢をとった。

「口が悪くて態度も悪くて、何度も喧嘩したんです。いつもその喧嘩をもう一人が止めてくれて。でも分かってゆくとそんなに悪い人でもなくて、たまに、ごくたまにいいこと言ってくれるんです。あの人も貴族だから、なんか気持ちが一緒で。それに友達なんて初めてだからすごく嬉しかった。これでお別れなんて寂しいです」

(祥伽とも、蕗伎ともこれで終わりなんて寂しい)

「秦奈国の貴族というのなら、またお会いできるかもしれませんね」

 顔を曇らせる姫に国王の書記官が王に一枚の手紙を差し出した。

「昨夜、秦奈国から国王様教皇様宛ての書状が参りました」

「秦奈国?」

「ええ。祥子様からです」

「祥子様は私はお会いしたことはないけれど、貴方に良く似た女性だと麓珠から窺っておりますよ」

 教皇はそういうと金縁で細工された重厚な手紙を開いた。

「祥子様がこちらに里帰りされると書いてありますが?」

 そう言って王を見る。

 覗いていた王も頷いた。

「今回の秦奈国の侵入についても内々に侘びをしたいと。そしてその上で国交の回復を」

「鎖国から抜けて新体制の第一歩てところかな。それに国交完全に回復すれば美珠様のその『お友達』きっと会えるよ」

相馬の言葉に美珠はまだ見ぬ秦奈国の王族を思い浮かべた。

「本当に? 貴族のボンなら祥子様にお聞きすれば分かるかしら。祥子様かあ、お父様に似た妹だったら……えっと? きっと自己中心的で、可愛い男の子好きかしら」

 言ってから美珠は何一つとして良いことを言えなかったことに気づいた。

 父親は目の前で小さくなっていた。

 すると母は珍しく声に出して笑った。

「そうね。王は自己中心的で可愛い女の子が大好きだから。ほうら、見て御覧なさい、あなたの行いは娘にだって見られてるのよ。娘とそう年の変わらない侍女に手を出すなんて最低よね?」

 その言葉にことの他、ウケたのはいつも国王の女好きを目の当たりにする国明と光東だった。

 二人がそれとなく諭しても王は聞く耳を持たず若い侍女に手を出しているのを何度も何度も見てきた。

 いつも高慢な王が妻と娘に責める目で見られて恐縮しているのは罰が当たったようでどこか可愛かった。

 それでも二人とも娘と妻に言いまける王の姿に笑ってはならないと懸命に堪えていたが、肩が揺れ、鎧が音を立てた。

「では国賓の準備をいたしましょう。こられた際には晩餐会なども開きましょうか」

「ええ。祥子様はこの国で育っておられた方、失礼のないようにね」

「はっ!」

 国王の側近は頷くと、その後今日の皆の予定を読み上げ始めた。


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