紅の章 第八十三話 新しい同居人
国王と教皇が部屋を後にすると、珠利が一番に見せに行ったのは国明だった。
ただの一兵士から特別な役職へと変わった珠利は一番に親友に知らせたかったのだ。
「いいでしょ。陽に当たらずかいがいしく働き続けた成果かな。珠以みたいに、目立って美珠様に気づいてもらおうなんて思ってなかったからね」
「そうだな」
国明はどう思っているのか、指輪をじっくり見た後、暫くぶりに見る美珠に微笑んだ。
「姫に正式なお守りをつけたんでしょうね」
「こんな嬉しいお守りはないわ。だって珠利よ。これで外にも出られるし。ね?」
「ね。美珠様」
美珠と珠利がまるで恋人同士のように熱い視線を交わして抱き合っていると暗守が声をかけた。
「騎士を出すことがあればいつでも声をかけてくれればいい」
「ああ。優先的に協力しよう」
隣で光東も優しい笑みを浮かべて頷いた。
「ありがとうございます。あ、ちょっと報告してくる!」
珠利は丁寧に礼を言うと、珠利を見つめていた数馬のところへ駆け寄った。
数馬もまた嬉しそうに珠利を撫でた。
「良かったな。軍からは卒業か。私は悲しいが」
「将軍…、本当にお世話になりました」
「よく仕えるのだぞ」
目を潤ませながら見つめあう二人の姿はまるで父娘のようだった。
「では、手続きをしようか。兵舎からも出ることになるだろうしな」
「あ、そうですね。美珠様、ちょっと、荷物の整理なんかしないといけないから、行ってくるね」
「うん。珠利! あとで!」
その夜、白亜の宮の食堂では、新しく同居人に加わった珠利のささやかな歓迎会が開かれた。
出席者は美珠、相馬、五人の騎士団長。
騎士団長たちは皆、帰ってきた国明を囲んだり、珠利の今までの配属について尋ねていた。
美珠は遠巻きにただ眺めていた。
国明が手の届くほどそばにいて、珠利が呼べば届くほどそばにいてくれる。
それは少し幸せな日だった。
幼い日の幸せな思い出の続きだった。
そして成長した自分には何よりも大切なかけがえのない仲間がたくさんできた。
(それに……)
手元にある酒に目を落とす。
今回の冒険で初めて友達ができた。
酒を見ると三人で乾杯した夜を思い出す。
祥伽と蕗伎と見た星空。
思い出すと寂しくなった。
「ちゃんと、話をしましょうよ」
小さく呟いて三つのグラスに酒を注ぎ、その中で一番少ないグラスを飲み干した。
「はあ、まさか美珠が姫だったとは。あの時殺しておくべきだったかな」
宿屋の一つで蕗伎は酒瓶を置いた。
「でも、まあいいや、これから面白くなりそうだ」
蕗伎は窓の外を見る。
そこには美珠が住む王城があった。