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紅の章 第八十二話 美珠の腹心

 光の差す廊下を美珠は満面の笑みを浮かべて走っていた。

 その後ろから相馬が追いかける。

 けれど今日は初めから捕まえることを諦めているようだった。

 気持ちよく晴れた朝の出来事だった。


 美珠が王の間にたどり着くと、絨毯を敷き、椅子を準備をしていた官吏たちが驚いて手を止める。

 その中の年長者が少し小走りでやってきた。 

「姫様、まだ早いのではありませんか? まだ騎士は城門を通過したあたりと伺いましたが」

「いいんです! 皆さんは私に構わずお仕事を」

(早く会いたい珠以! 早く、早く!)

「美珠様、早すぎだよ」

 相馬は美珠に追いつくと何度も肩で息をした。

 それから暫くして騎士団長たちが姿を見せた。

「おや、美珠様、お早い」

「だって早く会いたくて! もう部屋にいるのも限界だったんです」

 魔央が微笑むと美珠も、笑みを向ける。

 そこからの時間、鼓動一つでさえ長く思えた。

(早く来て! 会いたい)

 まるで呪いをかけるように見つめ続けた扉が開いて姿を見せたのは数馬、そしてその後ろに国明がいた。

(珠以!)

 目が会うと微笑んでくれた。


 一団が落ち着き最後に姿を見せたのは王と教皇だった。

「ごくろうでしたね。数馬」

「はっ」

「国王騎士団長も」

「はい」

 公人として礼をする国明を美珠は上気した頬を両手で挟み、ずっと目で追っていた。

(早くお話したいなあ、でもやっぱり国明さん、かっこいい)

 ひとしきり挨拶を終えると数馬が切り出した。

「そういえば王、我が軍に所属する珠利について異動という風にお書きなさっていましたが?」

 数馬の言葉に王は頷き、その代わりに教皇が声に出した。

(珠利がどうしたっていうんです?)

「珠利には貴方の軍に配属してすぐに申し訳ありませんが、皇太子直属になって欲しいと思います」

(皇太子?)

 美珠が不思議そうに両親を見ると相馬も口に出した。

「皇太子ってことは美珠様直属ってこと?」

 騎士団長たちもまた初めて聞く内容なのか美珠を見た。

 けれど美珠も何も聞かされていない。

 その案は今まで教皇と国王の胸に秘められていたようだった。

「皇太子直属とは、近衛兵ということですかな?」

「近衛よりももっと近くです。この子の性分はきっと王ににて好奇心旺盛なのでしょう。その際、面倒な手続きをせずとも外へ出られるようにしたいのです。そのためには強い人間が必要。珠利であればそれが可能です。同性であればこそ、怪しまれずに行動が共にできます」

「なるほど。護衛というわけですか」

「ええ」

 美珠にとってそれは嬉しい話だった。

 珠利がついてくれる心強い。

 それに手続きなしで外に出られる。

「どうする? 珠利」

 数馬の声に扉が開いた。

 扉を開けたのは珠利だった。

 珠利は一度、美珠の方を見ると微笑んだ。

「断るわけないじゃん!」

「珠利!」

 美珠が堪えられず抱きつくと珠利は片目を瞑って見せた。

「でも、止めるときは止めるからね」

「うん」

「相馬も、美珠の行動の制限は必ずかけなさい。貴方が美珠の錠になるのです」

「はい」

 教皇の言葉に相馬はしっかり頷いた。

「では、珠利、相馬二人はこちらに」

 教皇は二人を手元に呼んだ。

 二人が顔を見合わせ、王と教皇の前で傅くと厳粛な空気を纏いながら、王が立ち上がり二人に指輪を手渡した。

 幅の大きな白金の指輪には竜のモチーフが彫られていた。

「今、美珠直属という者はあなた方たった二人です。二人には独立した指揮権を与え、独自の教皇と王に謁見する権利も与えましょう。必要であれば騎士団長と相談の上、騎士を動かすことも可能とします」

 二人は恭しく頭を下げると美珠の後ろに立った。

 お互い顔には笑みを浮かべていたが、相馬は途中から必死にそれを隠そうとしていたし、珠利は美珠と目を合わせて幸せそうにただ微笑んでいた。

 美珠は家来というには家族に近い二人がこれから遠慮なく傍にいてくれることに限りのない喜びを覚え、自分に配慮してくれた父と母に深く深く礼をした。

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