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紅の章 第八話 笑顔の優しい騎士団長

 父の扉を叩くと優しい顔が姿を出した。

「美珠様、どうなさいました?」

「少し休憩はいかがですか?お父様も、光東さんも。」

 美珠が後ろに意識したような視線を送ると光東も後ろを見て嬉しそうな笑みを妹に向けた。

 するとはじめは王に会うということで緊張していた初音も嬉しそうに兄へ笑顔を向ける。

「初音。どうしてここに?」

「初音ちゃんが外国渡りのお菓子を持ってきてくださったの。お父様と一緒に食べようと思って。」

 中にいた父は美珠の声を聞き、美珠と目を合わせると中へと招き入れた。

「失礼いたします。国王様ご機嫌いかがでしょうか?」

 初音の姿を見ると父は目じりを下げ、入室を許可する。

 光東はそんな王に頭を下げると部屋へと三人を通した。

 部屋には昨日よりも書類が積みあがっていたが、国王は休憩の機会を窺っていたようで、すぐにソファに座ると侍女にお茶を入れるように合図した。

「申し訳ありません、こんなお忙しいときに来てしまって。」

すると国王は首を振り、笑みを浮かべた。

「心配しなくても、陛下はこんな書類など半日あれば、仕上げてしまわれる。本気さえ出されれば。」

 最後の光東の嫌味を聞き流した王は、初音の持参した箱を眺め、尋ねるように視線を上げた。

 それが分かった美珠は尋ねてみた。

「これは、どこのお菓子なの?」

秦奈(しんな)国です。あの国はこの国の隣にあるにもかかわらず殆ど外交もなくて久しぶりに手に入ったのでお持ちしようと思いまして。」

「秦奈国といえば、国王に嫁がれた叔母様がいらっしゃるのよね?」

 美珠の言葉に王は頷き、そして髭を撫でて遠い目をした。

「けど、現王になってからは鎖国中。その上、武器開発にかけちゃ、ちょっと特殊だからね。」

 相馬の言葉に全員が顔を向けると自慢げに相馬が解説を始めた。

「ちょっと気になって、一回潜り込んだことあるんだ。見た目割と平和なんだけどね。これ、製造してる。」

 見せたのは相馬がいつも装備していた銃だった。

 先日の戦いですでに弾は尽きていたが、それでも珍しいものだからと相馬は一番小さなものを装備していた。

「製造はしてるけど、もともと開発したのはあの国じゃない。他の大陸でこれより大型のものが出回ってるらしい。でも、あの国はこれを小型化することに成功した。」

「よく、知ってるのね。」

 美珠の言葉に相馬は片目をつぶって見せた。

「まあ、気にはなる国だよね。」

「ええ、どうやらこの国の菓子の流通量が増えたみたいなんです。」

「ふうん、商人同士の行き来が激しくなったのかな。情報を集めておかないと。」

 相馬は侍女からお茶を受け取ると皆の前に置いた。

 箱を開けると中にあったのは焼き菓子だった。

「味見いたしましょうか。」

 光東は一番にそれを取ると口に入れて毒見をした。

 かみ締めるとバターの味とナッツの味が口の中に広がった。

「ああ、これおいしい。この国の焼き菓子よりも少し固くて甘いですが。そんなにしつこくもありませんし。」

 国王はその言葉を聞いて一口食べて、五つ手早く取ると紙の上に乗せた。そしてそばにあった羽ペンで妻の名を記すと光東に手渡した。

「教皇様にですね。承知いたしました。」

 すると王は初音を見てから光東に片目を瞑って見せた、理解したのか光東は一口お菓子をかじった初音の肩を叩いて立ち上がった。

「では、教皇様にお渡ししてまいります。」

「え?お兄様?」

「すぐに戻ります。」

 二人が出て行くと、王は満足そうに顔を緩めた。

「あの二人、会うの、何日ぶりかな?」

 相馬はそういって焼き菓子を口に入れる。

「光東さんも、忙しいから。よかった、二人を会わせてあげられて、ありがとうお父様。だって、初音ちゃん、きっと私たちといるよりも光東さんといるほうが嬉しいわよね。」

「また、そういうのは別物だろうけどさ。陛下、さっきの秦奈国について何か話は入ってきてますか?」

 首を振る国王を見て相馬は立ち上がった。

「少し父と相談して話をしてきます。父は西方将軍でもありますから、何か動きがあるのなら。」

 国王は静かに頷いた。

 そんな様子を見て美珠は一人お茶を飲んでいた手を止めた。

「相馬ちゃん、しっかりしてるわね。」

 同じ年の乳兄弟が自分よりも政治向きなことに美珠は嬉しいようなどこか取り残されている気持ちがしてならなかった。

「私も負けてられないわ。頑張らなくちゃ!」


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