紅の章 第七十九話 全てが元通り
「無事、姫は保護した」
国明が飛竜から降りるとすぐに国廣が寄って来た。
そして一緒にいた国友、安緒を見つけて安堵の息を吐いた。
「君たちも一緒でしたか。姿がないので心配しました。今も幾人かを捜索に当たらせているほどです」
「ああ。悪かった、途中でこいつらを見つけてそのまま連れて行った。そのことに対するお前の責めは甘んじて受けよう」
「そのことについて団長を責めるつもりはありませんよ。この二人も何か悟ることがあったようですし」
国廣は国友と安緒の顔を見て満足そうに頷いた。
「お、よかったね。二人とも! ここの副団長陰険そうだモンね~。さ、私、将軍に報告してくるから、ここで」
珠利はすぐに竜から降りると走っていった。
天幕から出てきた将軍、数馬を見つけたからだ。
「私が陰険……、まあ光り輝く団長に比べれば、私は影のようなもの。おまけにきつく言わなければ、やらなければいけないことを後回しにする団長なのです。団のためなら嫌な役も引き受けようと、心に鞭打っているのに」
「あいつは考えなしにものをポンポン言うんだ。忘れてくれ」
言葉を遮った国明に国廣はさほど気分を害した風でもなく、隣にたって横目で問いかけた。
「で? 秦奈国の者達はいかがでした?」
「きっと数日後、この国境を通るだろう。ただ、もうそれで終わりだ。戦争にはならない」
「左様でございますか」
国明の周りには姿を見つけた若い騎士達が集まり始めていた。
団長をみて若い団員達が駆け寄ってくる。
国明はそんな騎士達に向かって声を張り上げた。
「姫はご無事だ。今は王都に向かっておられる!」
歓声が上がった。
「お前達がついていてくれたお陰だ! お前達がここで守っていてくれる。それが力になった! ありがとう!」
すると騎士達は剣を抜いて声を上げた。
「貴方の軽はずみな行動でどれだけのものが動いたと思っているのです!」
い つも優しい母親が、父親の分まで美珠を怒鳴りつけた。
目の前に立つ、父、母。
横に並ぶ騎士団長たち。
美珠はそんな者たちの真ん中に正座して座っていた。
相馬も責任を感じ、美珠の後ろで正座し、しっかり教皇の言葉に耳を傾け時折頷いていた。
「貴方はたった一人のこの国の跡継ぎ、それを良く自覚なさい!」
「はい」
すると母は潤んだ瞳で美珠を抱きしめた。
「私達の娘は貴方しかいないのよ。どれだけ私達が不安だったか。貴方のことを思えばどれだけ心が痛んだか」
涙を浮かべて美珠に声をかける女性はどこから見ても教皇ではなく母親だった。
そして父親も美珠の頭を撫でて嬉しそうに頬を合わせた。
(お父様のお髭が痛いです)
そう思いながらも自分を見守ってくれる人たちがいるここが、自分にとって一番居心地のよい場所だった。
美珠も自分を包んでくれる両親を包み返した。
「ごめんなさい。お父様、お母様。私この城が、皆の傍にいられることがすごく幸せ」