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紅の章 第七十七話 かもられた姫

 慶伯の街に入ると誰かが美珠の下へと駆け寄ってきた。

「項慶!」

「無事だったのね。よかったわ」

 美珠は国明の馬から下りると項慶の手を取った。

「ついさっき、祥伽にも会ったわよ。馬車を貸してくれっていうから貸してあげたけれど本当に返す気があるのかしら」

「本当に?」

「ええ」

「良かった」

(あの人も本当に逃げ切れたのね。全く心配掛けて!)

 安心したような美珠の顔を見て項慶も微笑んで美珠に装備品の刀を手渡した。

 手を洗いにいくために主においていかれ項慶の側に置かれたまま、置いてけぼりを喰らった美珠の武器。

「忘れ物よ」

「あ、持っていてくれたのね」

 手渡され、美珠は飾りの宝石がないことを思い出した。

「ああ、これ、お返ししないと」

 美珠は借りていた銅貨の小袋を出して、先日野菜を得る為に払った三枚を補おうとした。

「相馬ちゃん、銅貨三枚持ってない?」

「え? 銅貨?」

 財布を開いた相馬は隣の珠利を見た。

「銀貨ならあるけど、銅貨二枚しかない。持ってる?」

「え? お金? 持ってない、珠以は?」

「ああ、ありますよ」

 国明は財布を開けて美珠に手渡すと不思議そうに二人のやり取りを見ていた。

 一方、美珠は揃った三枚の銅貨を袋に戻すと妙に自慢げに項慶に手渡した。

 項慶は眼鏡を持ち上げるとおもむろにそれを掌にひろげる。

 そして十枚を束にして数えてゆく。

「数えなくても、百枚あるでしょ? 私三枚しか使ってないもの」

 しかし、項慶は顔を上げて眼鏡を光らせた。

「いえ、九十九枚しかありませんよ」

「え?」

 確かにきちんと分けられた項慶の勘定を見ると九十九枚しか存在しなかった。

「ええ? どうして。どこかに落ちたのかしら」

「お金が返ってこないということはこの宝石は返せません。姫様ともあろう人が騙そうとするなんて」

「待ってください」

 美珠は誤解を解こうとその場で何度も袋を覗き込んだ。

 騙したなんて事は心外であるし、そんなレッテルを貼られれば自分が恥をかくのだと思うと必死にならざるを得なかったのか。

 けれどどこをどうさぐっても最後の一枚を見つけることはできなかった。

「本当に百枚あったの?」

 困ったようにお金を探し続ける美珠に声をかけたのは相馬だった。

「え? だって、項慶が百枚だって」

「美珠様見たわけじゃないんだね」

「だって、たくさん入ってたんだもの」

 今にも泣きそうな美珠を見かねて相馬が項慶の前に立った。

「姫様をカモった? 悪徳業者みたいなことするね。君」

「私は確認してくださいと申し上げたんですが」

 すると相馬は息を吐いて自分の財布の銅貨を一枚、美珠の持っていた小袋に入れた。

 意味が分からずぽかんとしている美珠に項慶は質草となっていた宝石を手渡した。

 返ってきてもこのことについて納得できなかった。

 先に問いかけてきたのは何故か項慶だった。

「どういうことか分りますか?」

「え?」

「貴方は人を疑わなかった。もしかしたら袋に入っていたのは初めから九十九枚だったかもしれない。でも貴方はそれを確認せず百枚だと思い込んだ」

 項慶の目の奥は笑っていなかった。

「人を疑わなかったから、暗殺者を見抜けなかった」

「項慶」

「世の中の全ての人が善人ではないわ。貴方の力を欲して近づいてくる奴らだっている。そんな人間信じちゃいけないの。人の言うこと丸呑みしちゃいけないの。今回は騎士が助けに入った、だから命があった。でも、これからもずっとそうなるとは限らない」

 まるで姉のように叱る項慶のいいたいことが分ると静かに頷いた。

 項慶もまた美珠が自分の言葉を聞いてくれたのが分かると美珠の瞳を見て頷いた。


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