紅の章 第六話 空への想い
白亜の宮に戻った二人は美珠の部屋で向かいあい食事を終え、侍女の入れてくれたお茶を飲んでいた。
「今、皆さんお忙しい時期なんですよね。」
「今よりも、あと一週間ぐらいですか。先日選抜を済ませた見習いが入ってくることになっています。各騎士分ければ数十人単位ですが、今年はあの戦闘で負傷したものが多く、その分補充多くなっています。」
暗守は優しい風に水銀色をした髪をなびかせた。
いつ見ても綺麗な色の髪に美珠は一瞬見ほれた。
「で、美珠様は何をお探しに?高い位置にあったのならおとりしますが?」
「いいえ、本はいいんです。」
美珠は一瞬詰まった後、思い切って口を開いた。
どうしても確認したいことがあった。
「今回竜騎士の採用はないと聞きました。もう、これから竜騎士はなくなってしまうのですか?」
すると暗守は瞳を閉じて首を振った。
「いえ、そういうわけではありません。ただ竜騎士用の竜は個体数が少ない。そして騎士自体が戦死し一人もおりません。退役した竜騎士の方々が有事の際には出てくださるそうですが、それでも、竜の成長、騎士の成長を考慮すると数年復活は不可能でしょう。」
「数年、そんなにかかってしまうのですか。竜騎士を夢見た人もいるでしょうに。」
「ええ、そうですね。その者達にすれば辛い話ですが、当然先日の戦闘での竜騎士を振る舞いに対して反発もあります。だからこそ、暫く置いておいたほうがよいのです。」
美珠がしょげた顔をすると暗守は穏やかな顔をして兜をかぶった。
「我々騎士団長も、待ち遠しいのです。飛竜が空を飛ぶのが。」
「ええ。」
美珠はお茶を飲むと立ち上がった。
「ご心配なさいますな、あなたが王になられるまでには竜騎士はまた復活して空に舞い上がっているでしょう。」
美珠はその言葉を聞いて空を見上げた。
青い空には今は鳥が飛んでいた。
(この空にいつか飛竜が、そうしたら私も乗せてもらおうかしら。)
「楽しみですね。」
「ええ。」
暗守も空を見上げて、美珠に頭を下げて仕事へと戻っていった。
美珠は暫く空を眺めていたが、ふと視線をおろすと柵の向こうに誰かが立ち、自分を見ていることに気がついた。
(人に見られてた…。)
すぐにその男は見張りの兵士たちに追い返されたが、美珠と目が合うと何か言いたげに口を動かした。
(どこかで見た人。)
美珠はその人間をすぐに認識することはできなかった。
穏やかそうな顔つきに背の高い若い男。
どこかで会った気がする。
どこかで話をした気がする。
何度思い出そうとしても、その人が記憶から呼び起こされることはなかったが、諦めて部屋に戻ると答えがあった。
病院の企画書が机の上に置かれていた。
(これだ!)
そして慌てて振り返った。
昨日会ったあの建築士の息子。
(どうしてあの人が。私を見ていたのでしょう。)
椅子に座って企画書をめくってゆく。
けれど彼の訪れた理由は分からなかった。
(まだ、間に合うでしょうか?)
美珠は走り出していた。