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紅の章 第五十九話 女の扱いはお得意ですか?

 女は救護所で他の魔法騎士に足を癒されていた。

 すぐに傷が塞がってゆく。

 暗守は治療を終え、少し気を緩めた女に竹筒に入った水を手渡した。

「あなた方はどうしてこの国に?」

 問いかけても女は返答することを躊躇っているようだった。

 けれど水を一口含むともう一人では耐え切れぬのか涙を落とすとポツリと語った。

「逃げてきたんです。あの国から。全て捨てて」

「逃げてきた? 何が追ってくる?」

 暗守の問いかけに女は悲鳴をあげた。

「こんなことになるなんて! こんなことに!」

「落ち着いて、話をしてくれないか」

 暗守が諭しても女は興奮状態に陥り泣くだけで何も分からなかった。

 暗守は泣かれるよりは美珠につながる情報が欲しかった。

 けれど元来暗守は女の扱いに慣れていなかった。

 焦りだけが募ってゆくとき、竜が嘶いた。

「来たか」

 立ち上がり救護所を出ると見慣れた団長を見つけた。

「何故、お前が先にいる?」

 聖斗は表情を変えることなく竜から降りると暗守に寄った。

 暗守は声を潜めると救護所に目をやった。

「赤い瞳の女を保護している。連れの男は瀕死。今手当てをしているがもつかどうか」

 聖斗はその言葉に早速救護所へと入ったが、泣いている女を見ると、入るのを辞めた。

「俺は女性の扱いが苦手だ。暗守お前できるか?」

「俺は無理だ。教皇様のお相手なら、お前の右に出るものはいないではないか」

「あの方は特別だ。泣いてる女などどうしてよいのか分らない。光東や国明ならできそうがな」

「確かに」

 団長二人は躊躇いながら誰か適任者を探した。

「何かありましたか?」

 現れたのは食料を両肩に下げ、尚、両手に竜の餌を持たされた相馬だった。

 二人は顔を見合わせ、相馬に全てを賭けることにした。

 背の高い二人に囲まれ相馬は一歩下がった。

「な、何?」

 団長二人の瞳には何も言わさぬ強い圧力があった。

「相馬殿、女性の扱いは?」

「お得意ですか?」

「え?」

 二人に押されるように救護所に入ると泣いている女がいた。

「え~」

 相馬はぼやきながら前に座った。

「何だよ、あんたら騎士団長だろう?」

 振り向くと二人に訊けと促された。

「すいません、少しお話を」

 相馬は無理やり笑顔を作ると問いかけてみた。

「正直におっしゃっていただければ我々もあなた方を悪いようにはいたしません」

「私はどうなってもいいんです。でも祥侘(しょうた)を、祥侘だけは助けてください」

 相馬はその名前に聞き覚えがあった。けれどどこで聞いたのかどうしても思い出せなかった。

「ええ、今頑張っています。ですから、貴方も少しだけ我々の質問に。」

 すると女はコクリと頷いた。

「ありがとうございます。」

 相馬はまだ遠巻きで見ている騎士団長二人にため息をつきつつ、女に問いかけた。

「先ほど、この国には逃げてきたとおっしゃった。何からです?」

 女はただただ涙を落とすだけで答えてくれなかった。相馬がハンカチを手渡すと女は小さく礼を言って言葉を発した。

「私はただ愛して欲しかった。私を見て欲しかった。押し付けるんじゃなくて認めて欲しかった」

 答えに相馬は分りかねた。

 求めていた答えは内紛とか暗殺とかそういったものだったからだ。

「それを私にくれたのは祥侘だった。祥侘は私を連れ出してくれたんです。広い外の世界へ。だから私から祥侘を奪わないで」

 そう言って女は再び興奮状態におちいり泣き叫んだ。


「騎士か。厄介だ」

 森の中で黒い影がいくつも動いていた。

「いや、これでいい。このままここで死ねば、騎士に殺されたことにできる」

 黒い影は小さく笑い声を残すと闇へと消えた。


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