紅の章 第五十四話 息の合う新人
「お前達、何をしてる」
国明は馬を止めると地面に倒れている二人を見下ろした。
二人は国明が思っていたよりも進みもせず、ぐったりと地面に倒れこんでいた。
「仲の悪さもここまで来ると一級品だね。これはこれで認めてあげたほうがいいのかな?」
珠利は馬から下りると縄を引いて二人を立たせた。
二人を縛りつけている麻縄は国明が結んだままほどかれることはなく、皮膚を擦り、周りに血が滲んでいた。
「意地っ張り同士なの?私達の時にはこうならなかったけどね。ねえ、珠以」
「ああ、半日でお互い折れたが……お前達」
国友と安緒はお互い顔を反らしていた。
二人の顔は土で汚れ、衣服も泥で黒くなっていた。
それでも瞳だけはまだ闘志を燃やしていた。
「こいつが言うことをきかないから。」
安緒の言葉に国友が返した。
「貴方の指示が的確でないし、これほど遅れたんだ。正直もうあなたの指示なんて聞きたくない」
「はあ、あんたたちねえ」
珠利が怒鳴ろうとすると国明は馬から下りて、剣を抜いた。
二人は怯え、足をもつれさせることなく数歩下がった。
けれど国明はそれより早く動くと二人の間に剣を振り下ろし、足の紐を切った。
二人は急に自由を得、反動でその場に転んだ。
耳にパチリと剣を鞘に戻す音が響く。
そして耳に団長の言葉が入った。
「早く西へ行け。」
「団長はどこへ?」
尋ねたのは国友だった。
「姫を救いに行く。」
「そうだよ。時間ないんだから。」
国明と珠利が馬に乗ろうとすると国友と安緒は顔を見合わせ、馬の前に立った。
「団長!俺たちも連れて行ってください!」
「それはできん。足手まといだ。お前達の実力は知ってるからな」
「あんなもの!半分です」
言い切ったのは安緒。
「先を急ぐ。邪魔をするな」
「このまま乗せていただけるなら邪魔などいたしません」
そう次に叫んだのは国友だった。
珠利はそんな二人を呆れたように見ていたが、やがて腰に手を当て、一つ息を吐いた。
「ねえ、どうすんの?珠以。あんたの部下でしょ?」
国明もまた息を吐いて、二人を見据え声をかけた。
「乗れ。時間がもったいない」
安緒は珠利を見てから、気に食わないものでもみるように国明の後ろに乗り、一方、国友は珠利に軽く頭を下げて後ろに乗った。
「よろしくお願いします。」
「おっし、つかまってなよ。行くよ! 珠以!」
「ああ、行くぞ。」
「はい!」
「はい!」
変なところで息を合わせ、声を張り上げる新人二人を不思議そうに珠利と国明は見てから顔を見合わせ、苦笑いしながら馬を飛ばした。