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紅の章 第四十九話 悶える幼馴染達

「慶伯から連絡が参りました!」

 その知らせを誰もが待っていた。兵士は王と教皇の前に跪くと、声を張り上げた。

「川下、慶伯の地において目の赤い異人と手配書ににて女性を発見したとのこと」

「よかったああ」

 相馬はその場に崩れるように座り込んだ。

「で、保護はできているのですか?」

 教皇の言葉に兵士はさらに続けた。

「いえ。慶伯の地においても戦闘が起こった模様です。その後、その二人の姿は東に消えていったとのこと」

「何してんだよ。美珠様。姫様だってことわかってんのかよ!」

 相馬が頭をくしゃくしゃにして叫ぶと聖斗が静かに兜をかぶって扉に手をかけた。

「行ってくれますか?」

 それに気がついた教皇は静かに問いかけた。

 聖斗が自分の指示なし動き始めたことに少し動揺しつつも。

 聖斗はそんな教皇の思いに気がついているのか、いないのか、無表情で頷いた。

「はい」

「俺も行きます!」

「貴方は不必要だ。戦えない」

 相馬は言い捨てられ唇を噛む。けれど相馬も負けてはいなかった。

「それでも、俺は美珠様の執事だ! 乳兄弟だ! あの人のそばにいるんだ。なんだっていい。食料を運ぶ係りだっていい。連れてってくれ」

 聖斗は暫く相馬と見合っていたが扉を開けた。

「分かりました。邪魔にはならないで下さい」

 そして聖斗はどんな表情を見せることもなく教皇と国王に頭を下げると出て行った。


 外へ出ると教会騎士副団長が聖斗の元へと寄って来た。この騎士団もまた国王騎士団と同じように騎士団長よりも年上の副団長だった。

けれど、彼は温厚で控えめな人間だった。

「団長、準備は整っております」

「ならば、出る」

 副団長は聖斗の後ろに居る相馬に気がつくと軽く頭を下げた。

「馬と竜では速度が違う。お前の竜にのせてやれ」

「はっ」

 副団長は相馬に軽く頭を下げると表情を崩すことのない団長の後ろについていった。



「失礼します」

 国明が将軍の天幕に入ると敷物の上で数馬が胡坐をかき、その隣で珠利には珍しく難しい顔で腕組みをしていた。

「お前にも王からの手紙が届いているのだろう?」

「は」

「どう思う」

 国明は騎士団長としての顔をしていた。

「王都で何かあったのでしょう」

「だろう。知れば我々が引き戻しかねない何かがだ」

 国明もその言葉に頷いた。

「けれど我々が引き戻せばこの国の士気に関わる。だから王は何も知らさず、むしろこの国の守りをを強固なものにしろと伝えてきた」

 すると数馬はもう一通の手紙を出した。

「麓珠から私へ個人的に宛てた文だ。」

「父から?」

 数馬は頷くと国明に手紙を渡した。見慣れた字を追っていた国明は凍りついた。

「美珠様が行方不明」

 その言葉に珠利は辛そうに息を吐いた。

「あのヒヨコちゃんとついてないから」

「秦奈国の者が絡んでいるんだろう。どうする、国明」

 国明は黙り込んだ。

 そして暫くの後、出した言葉は自分の思いとは真逆のものだった。

「まだ王都には騎士団長が残っているのです。彼らの力を信じるとしましょう」

「本当はすぐにでも行きたいくせに」

 珠利は少し怒りをはらんだ声で口を膨らませて外へ出て行った。そして数馬はため息をついた。

「団長としては模範解答だな。だが、珠以としてはどうなんだ?」

 珠以という名を呼ばれて国明は唇を噛んだ。

 そう自分を呼んでくれる愛しい人が今、どこにも居ない。どんなところでどんな目にあっているのか。自分の名前をどこかで叫んでいるのかもしれない。

 けれど、自分がここを離れることが士気に関わる。

 それは愛しい人がもっと悲しむことになる。

 それだけはできなかった。

 してはいけないことだった。

 この国を守るためにも。

「下がって良いぞ」

 数馬にそういわれると国明は頭を下げて天幕から出て行った。外では国廣が待っていた。

「将軍の話は?」

「今後の確認だ」

「そうですか」

 国廣はそれだけ言うと頭を下げた。

「で、お前はここで何をしてる?」

「騎士見習い二人、まだここに到着しません」

「国友と安緒か?」

「はい」

「迷ったのか。分かった。明日にでも、捜索隊を出させよう」

 国廣はまだ何か言いたげに国明を見ていた。

「何だ?」

 正直国明は今、国廣と会話をする気分ではなかった。

 きっと、嫌味を言われれば爆発してしまいそうだった。けれど国廣はそんな上司の様子に気がついているのか、何を言うこともなく頭を下げて戻っていった。

 国明は暫く歩いて木下に座っていた珠利の隣に立った。

「騎士か美珠様か、どっち選ぶの。返答しだいではたたっ斬るよ」

「嫌な質問だな」

「私達二人居たらきっとこんなことならなかったのに」

「ああ。こんなこと」

 二人は同時に木を殴りつけた。

「あのヒヨコ、帰ったらぶっ飛ばす!」

「あの馬鹿姫にも今度はきついお灸を据えないと」


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