紅の章 第四十四話 城塞都市
「街発見!」
蕗伎の声に美珠は顔を上げた。
歩きすぎて朦朧とし始めた頭にやっと聞こえた救いの言葉だった。
目の前に明かりのたくさん灯る街。
灯りがあるということはそれだけの人がいるということ。
(人がいる。たくさんの人が。やっと助かった!)
ちょうど今立つ位置からのこの街の絵を見たことがあった。
特殊な建造物で守られ栄えた街。
「城塞都市、慶伯」
建国当時から国の要衝であり、現在はその姿を遺跡としても残す歴史都市。それは王都から少しはなれた町で、一つの城が街をなすという紗伊那でも珍しい城塞型の街だった。
「ここならいるかもしれない」
「誰が?」
聞き返したのは蕗伎だった。美珠も祥伽の言葉が気にはなっていた。
「さあな?」
「言いなよ。すっきりするかもよ」
「いい、ここでお前達とは別れるんだ」
三人が街に入ったそのすぐ後、相馬からの連絡が回った来たのか、兵士達が城門へと走ってきた。そして検問を始めた。
美珠は疲れ果てていてそれに気がつかなかったが、祥伽はそれに気がつき、そして蕗伎もまた視線を送っていた。
「さてと、宿に入ろう?俺、腹減った」
「私もお腹すいた」
「祥伽もご飯ぐらい食べていきなよ」
蕗伎が声をかけると祥伽も頷いた。
そして三人は近場の宿にすぐに入った。
美珠はもう足が一歩も動かないほど疲労にの頂点に達していた。部屋に入ると椅子に座ったはいいが全く動けなくなってしまった。
「何か、食べる?買ってくるよ」
「あ、私も」
「いいよ、君も祥伽も疲れてるだろうから」
何でも引き受けてくれる蕗伎はそう言って外へと出て行った。
蕗伎がいなくなると祥伽がポツリと漏らした。
「城門の警備が厳しくなったな。今は三人でいるほうがきっと安全だ」
「え?」
(それは私のせい?それとも秦奈国から来たこの人のせい?)
けれど考えれば考えるほど、両方のせいに思えて美珠は息を吐いた。なら早く決着をつけたかった。
「あなたは秦奈国の人間ではないのですか?」
男はまた目だけ美珠に向けたが何を言うこともなかった。美珠は息を吐くとさらに問いかけた。
「何の用でこの国にたくさん入ってきてるんですか?」
「たくさん?」
祥伽はそう聞いた。
初めて聞くかのように。
「え?ええ。私はそう聞きました。西から入ってきて東と北へ向かってるって」
「北?」
一言返すと祥伽は頭を抱えて考え込んでしまった。
珍しく天敵が弱みを見せたので、美珠はさらに詰め寄ろうとしたが逆に祥伽に血走った目で睨みつけられた。
「お前、どうしてそんな情報を知ってる?」
「え、あの、彼が軍人だから。それで」
「成る程な。口の軽い軍人だな。なよっちい体して」
(ごめんね、相馬ちゃん。)
美珠は乳兄弟に心で謝りつつ、祥伽を責めることを忘れなかった。
「そんなことよりも、何のためにこの国に。今まで鎖国してたのに」
「知らん」
「はあ?納得できるわけないでしょう。白状なさい!」
美珠が詰め寄ると男は再び背を向けた。
「都合が悪くなればすぐにそれですか!言わないなら、今すぐ官吏を呼んできます。捕まえさせて、吐かせます」
返事はなかった。
美珠は鼻息を荒くすると大またで部屋の窓へと寄って行った。
そして両手で力いっぱい窓を開けて叫ぼうと息を吸い込んだ。部屋は二階の隅、きっと大声を出せば聞こえる。すぐに官吏が駆けつけてくれる。
「婚約者を探してる」
「え?」
背中から聞こえた言葉に美珠は振り返った。