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紅の章 第三十四話 やっと姿を現した国王騎士団長

「国王騎士が出撃ですか。」

「ああ、そうだ。全員集めろ。今すぐに。」

 国明の取り巻きたちは自分のなすべきことをすぐに理解しすぐに走っていった。

「西ですか。これまで南と北への遠征は何度かありましたが、西は初めてですね。」

 国廣はいつものように国明の後ろに控えていた。

「お前には至急、新人騎士の振り分けをして欲しい。」

「はっ。そういえば。」

 国廣は言葉を詰まらせた。

「あの、国友という新人、新人数人に痛めつけられたようです。本人もその他のものも喧嘩だと言い張っておりましたが。」

「そうか。そっちもどうにかしないとな。」

「ええ。そうですね。ただとにかく今は国の大事。」

「ああ。」


 国明が壇上に上がると騎士たちは皆顔を引き締めた。

 それが中堅騎士国明が団長に戻った瞬間だった。

 新人たちは数人、わけが分からないというように顔を見合わせていた。けれども国明からでる気迫というものに押され次第に、この人が団長だと理解したようだった。

 それ程国明の顔は居並ぶ騎士よりも締まっていた。

「先ほど命令が出た。西域にて不穏な動きがあるとのこと。三日後に、我々国王騎士団はかの地に向けて出発する。皆、支度を整えておけ。」

「はっ!」

 先輩騎士に習って新人達も緊張した面持ちで敬礼した。

 国明は頷くと最前列に並ぶ男達に声をかけた。

「すぐに隊長会を開く。隊長は団長部屋に集まって欲しい。」


 その夜、

「お前!団長にどうやって取り入った!何で、お前が一番に名前を貰う!」

 安緒は数人の新人騎士とともに友次の前に立った。

 安緒に一蓮托生といわれた若者達は恐怖に怯えつつも仲間になる以外の選択肢を選ぶことは出来なかった。

 一方、友次は数人に囲まれながらも怯えることなく、殴られ切れた 口の端をぬぐい相手を睨みつけた。

 幼い頃、孤児だと村の子供達にこんな風に理不尽にいじめられたことがある。騎士であろうが、子供であろうがやることが同じで妙に腹が立った。

「取り入った?別に!僕は騎士であろうとしただけです!貴方達も騎士ではないのですか!こんなくだらないことをする前に貴方達はすることがあるでしょう!」

 逆に安緒は地方にいる頃、何度もこういう風に気に食わない奴をシメたことがある。その時の相手はいつも太守の息子である自分に逆らえず、泣いて許しを乞うた。

 そんな相手にしか出会ってこなかった安緒が思うよりも友次は強かった。それが少し以外だった。そしてそれがさらに気に食わなかった。

「あなたも変な驕りなんてさっさと捨ててください!そんなもの無用の長物です!」

「五月蝿い!」

「そんな驕り、自分を苦しめてるだけではないですか!」

「五月蝿いっていってるだろう!」

 安緒は自慢の剣を抜いた。

 一方、友次は丸腰だった、それでも体術で受けて立とうと構えた。こんな奴らから逃げる気はなかった。

「あのさあ、あんたそれでも騎士?」

 女の声だった。

 まずいところを見られたと、友次以外の騎士の背中に冷たい汗が流れる。こいつがチクれば自分達は確実に退団させられる。友次以外は安緒に助けを求めるように視線を送った。

 安緒も又、内心怯えていたがそれを出さぬように目に力を込めて振り返った。

 そこに立っていたのはただの女兵士だった。

 皆ほっとした。

 兵士なら脅して黙らせればいい。

 安緒は安易に考え、相手を怒鳴りつけた。

「なんだ、兵士のくせに口を出すな!」

「偉そうにいうねえ。まあ、何でもいいからさ、その剣、鞘にもどしな。」

「何だと!命令する気か?兵士の癖に!」

 友次は矛先が女に向いたのを見て慌てて間に入った。

 痛めつけられるのは自分だけでよかった。見も知らぬ女性が巻き込まれるのは何としても避けたかった。それは自分のためにも、彼らのためにも。

「この人は関係ないでしょう!」

「うるさい!」

 安緒は友次の思いと体を突き飛ばすと剣を珠利に向けた。

 怯えなどない珠利は頭を掻いた。

「ああ。もう五月蝿いなあ。自分が五月蝿いのわかんない?まあ、いいや。かかっておいでよ!一発お見舞いしてあげる。」

 安緒が剣を振り下ろしたときにはもう女の姿はなかった。逆に、安緒は猛烈な痛みを腹に感じ、その場に膝をついた。女の拳が自分の腹にめり込んでいたのだ。息ができず、こみ上げてきたものを吐き出すと女の笑い声が聞こえた。

「ごめん。ごめん。ちょっとムカついたから、お仕置き!さてと、仕事仕事!」

 女は楽しそうに今尚嘔吐する安緒の背中を叩いて歩き出した。

 友次はその女に付き従うような感じで後ろを歩いた。

「あの。」

「ああいうの嫌いなんだよね。私。」

「え?」

「あんな騎士として心のないまま威張る奴。きっと悔しい思いしたことないんだよね。」

「確かに。でも、こんなことしたのが分かれば、あなたにだって何か嫌がらせが。」

「でも性格からしてみてみぬ振りなんてできないんだよね。おせっかいだね。」

 そう言って振り返って笑った女の笑顔がとても綺麗で友次は顔を赤らめて立ち止まった。

「じゃあね。少年、頑張りなよ。負けるんじゃないよ!」

「あ…はい。」

 珠利は軽く手を振って、赤面した少年をそこに残したまま去っていった。


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