表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/171

紅の章 第三十二話 緊急会議

「え?緊急会議?」

「そ、うちの父さんと、麓珠様が開く緊急会議。」

 それは昼を過ぎた時間だった。

 美珠は聖斗とのなまった体に鞭打たれ血を吐くような壮絶な稽古の後、遅い昼食を取っていた。

「私が行っても?」

「ん、もちろん!」

 美珠はその言葉に心をときめかせた。

 会議に参加できる。

 自分もこの国で認められているそんな気がしたからだ。


 会議室にはすでに騎士団長と副団長、そして各方面の軍事関係者に外交関係者。多くの人間が集まっていた。

 美珠は国王、教皇と共に部屋に入ると相馬に勧められ、国明の隣に腰掛けた。

「会議なんて初めて緊張しちゃいますね。」

 国明はそんな美珠の言葉に微笑んだ。

「いずれはあなたがこれをおまとめになるのです。しっかり見ていてください。」

「分かってます。」

 進行したのは軍人の一人だった。

 この国の地図を前に指示棒で西の国境を指し示した。

「西の秦奈国は今まで鎖国をしておりましたが、最近ここから商人が流れ込んできているということです。元々、鎖国といえどもわが国の王妹、祥子(しょうこ)様が嫁がれていることからこちらの国とは多少の交流があり、特定の産業分野においては規制の上、交流を保ってまいりました。けれどこの国に入り込んでるのは産業だけではないようです。」

 軍人は自分たちの手元にある資料を示した。

 美珠も皆に混じって見真似で資料をめくった。

 すると入国記録があった。日付や名前、目的が記載されていた。

 それは比較のために添付された先月の記録よりも数倍に膨れ上がっていた。

「西から数人の軍人らしきものたちが入り込んでいるようです。商人たちにまぎれるものや、行商人を装っていますが。彼らは国内の至る場所に散ってゆくようです。中でも一番多いのが北。」

「西からきた人が北へ?」

 美珠はもう意味が分からず思わず声を上げた。すると軍人は美珠の声に反応し今度は北を示した。

「はい。この国の北には永久凍土が国の三分の二を占める北晋(ほくしん)(こく)があります。しかし、この国は、永久凍土であるがために慢性的な食糧難に陥っており、わが国の食糧援助を受け、向こうからは鉱石の提供を得ているという形になっております。今のところわが国との友好関係に変化はございません。ただ、この国の国王、長年圧制をしき、民の心が離れているとも聞きます。」

 美珠は地図に目をやった。

 西の秦奈国も北西部分で北晋国と国境を接している。そんな秦奈国の者達がわざわざ紗伊那に入ってまでなぜ北晋国へと向かってゆくのか。

(何故、この国に入ってまで。)

「秦奈国の目的はまだはっきりしません。入国したものが北晋国に出国したという記録もありません。この国にとどまっているのでしょう。」

 すると進行の軍人が変わった。

 今度は秦奈国の分析表に書類が変わった。

 美珠がまごつくと相馬がめくってくれた。

「秦奈国の兵力は小さなものです。ただ、今回この国に入り北へと散った者たちを間者もしくは引き金にし、わが国と北晋国と戦争を引き起こさせ、その間にどちらかの領土を侵略しようとしているのやもしれません。とにかく、わが国では北と西の国境警備を増やすつもりでおります。」

 軍人が数馬を見ると数馬は国王と教皇の前へ進み出た。

 恰幅のよさが威厳を際立たせた。

「北への陽動の可能性も否定できんがらな。兎に角流入する西に重点を置く。それに騎士もつれてゆく。国境、西、北、どちらにも一団ずつ。そうすれば士気もあがるからな。」

(騎士を!)

 美珠は慌てて隣の国明を見つめた。

 けれど彼の瞳はもう騎士団長のものだった。

 美珠を見ることはなくただ数馬を見ていた。

 数馬もまた国明に視線を送っていた。

(珠以。)

「西に国王騎士団、北に暗黒騎士団に配置させる。ただ北はむやみに刺激をするわけにもいかぬ。国の情勢も不安定だというのならなおさらだ。暗黒騎士は半数でよい。ただ、有事の際を考え、魔法騎士もどちらにも従軍して欲しい。」

(珠以が…国境に。)

 美珠は隣に座る存在が急にいなくなることに動揺を隠せなかった。

(危ないところになんか行って欲しくない。)

 美珠は隠れたところで拳を握った。

 すると何かが自分の手を包んだ。

 国明の篭手に覆われた手が自分の手を包んでいた。

 そしてきつく握った美珠の拳を解くと指を絡ませてくる。けれどその手は美珠が気を緩めると同時にすぐに離れてしまった。

「大丈夫、まだ戦うわけじゃない。ただの警備だから。」

 美珠の動揺は相馬にもちゃんと伝わっていたようだった。前にいた数馬もその言葉に頷いた。

「戦争など起こさせませぬ。そのため、今から手を打つのです。出立は三日後、それまでに各方面、および関係省庁は準備を整えておくように。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ