紅の章 第三十一話 『国』の名を与えられし少年
「お前に課せられる罰は王城の周り三十週を一月だ。」
「え…それで、よろしいんですか?」
「ああ。」
友次は最悪退団までを想定していたが、思いのほか軽い罪を言い渡され、顔には喜びが浮かんでいた。
国明はそれ以上何もいうこともなく、立ち上がると木刀を二つ取り、友次へと軽く投げた。
友次は受け取って分からぬと言いたげな目を木刀へと向けてから国明へと目を上げた。
そこにあったのは厳しい騎士団長ではなく面倒見のよさそうな先輩騎士の顔だった。
「さてと、俺たちも剣術の稽古でもするか。付き合え。」
「あ、はい!」
友次は罰よりも団長と稽古ができるという喜びに心を躍らせ後ろに従った。
「お前、どうして国王騎士になりたいと思った?国立聖訓練所なれば、あそこの師は元教会騎士団長だったろうに。」
友次は脳裏に浮かんだ師を思い出した。
正しくて熱い人だった。
「あ、あの。師の願いは自分の教え子の中から両方に騎士を輩出することです。それに僕は昔、飢え死にしかけたところを国王騎士のどなたかに助けていただきました。あの青いマントは今でも強烈に覚えています。だから、師と相談して僕は国王騎士になることに決めたんです。」
「そうか。」
国明は足を止めると振り返った。そして木刀を構えると相手を見据えた。
「お前の名前は明日から国友 だ。」
「え?」
「それが騎士としてのお前の名前だ。」
「国友…。はい!有難うございます!」
友次は国友という名を貰って一度丁寧に礼をした。
「さっそく、師に手紙を書きます。きっと喜んでくれます。」
「ああ。さあ、来い!」
「はい!」
友次はまた木刀を握りこむと自分から格上の相手にかかっていった。
国王のもとには親友二人が集っていた。
王国最高の文官、麓珠。
王国の西方将軍、数馬。
彼らは昔から酒を飲むことを好んでいたが、今日はどこか暗い酒だった。
「先ほど軍議がまとまり西と北へ軍および騎士を出すことになった。明日、早速会議を開きこのこと騎士団長達に申し伝える。」
数馬の言葉に王は頷くこともなく地図をただ眺め指で紗伊那の隣の国に指をやった。
そこにあるのは妹の嫁ぎ先、秦奈国。
そして低く静かな麓珠の呟きが耳に残った。
「戦争にならねばよいが・・・な。」