紅の章 第三十話 新人のお詫び行脚
次の朝、朝議で聖斗とともに昨日の諍いの顛末を報告した。
「魔法騎士に癒してもらい怪我も癒えましたので、今日から団に戻ります。」
「そうですか。それは良かった。」
教皇は聖斗に頷いた。
「あとで、そちらの団員に謝りに行く。」
「何もお前まで来なくてもよいが?今回はお互いの思想というものではなくただの血気盛んな若者の喧嘩なのだろう?」
聖斗の言葉に国明は首を振った。
「いや。それでは済まされないだろう。ただ、」
「ただ?」
聞き返したのは美珠だった。
「いえ。何でもありません。では、失礼いたします。」
国明が出て行くと美珠は心配そうに視線を送った。
「本当に団長直々に行かれるのですか?」
「ああ。」
後ろで友次は困ったような顔をしていた。
前を行く国明は厳しい顔をしたまま早足で教会騎士団へと歩いてゆく。友次は重苦しい空気に尋常ではない汗をかいていた。
ふと国明は声をかけた。
「怪我をしたものは国王騎士だから謝って欲しいとおもうか?」
「え?」
友次は足を止めて聞き返した。
「何を謝るのか・・・間違えるなよ。」
その言葉を聞いて友次は唇を噛んだ。
ばれている。
そう思っても、もう名乗ったのだから後に引くことは出来なかった。
そんな気持ちのまま、国明が教会騎士団長の部屋の扉を叩き、開けると友次は息を呑んだ。
眩暈がした。
そこには入団式で見た全ての騎士、四種の衣装があったからだ。
そして端には若い女が立っていた。
「このたびは申し訳ありませんでした!」
友次はあえて見ないようにして頭を深々と頭を下げた。
正直、足が震えていた。
全ての団長を集めた大事になるとは思わなかった。
上ずった声で頭を下げても許しの言葉はかからない。
頭を上げることも出来ず、ポタリと冷や汗が額から落ちた。
そんな時頭上から声がかかった。
「表をあげろ。何を、誰に謝っているんだ?」
「教会騎士の方に怪我をさせてしまったことを…です。」
教会騎士団長席に座る男は静かに問うと、友次の帯びる黒い鞘の剣に視線をやってから顔を上げた友次の瞳をまっすぐ見ていた。
その瞳に吸い寄せられそうになりながらも、友次はたわごとのように呟いた。
「怪我をさせてしまって、その人に焦りを与えてしまったことを謝りたいです。」
友次の答えに聖斗は思わず眉間に皺を寄せた。
「焦りだ?」
「入ったばかりの時に怪我をして、団に加われないなんて、僕にとって見れば地獄です。折角、入ったのに。皆は練習してるのに、自分だけできない。そんなの…地獄です。」
「成る程な。」
「済まなかった。」
その隣で国明も頭を下げた。
「このようなこと、二度と起こらないように指導を徹底しよう。」
「謝罪は一応受け入れる。ではお前が直接本人に謝って来い。」
聖斗の言葉に教会騎副団長が、友次を連れて出た。気の知れた仲間だけになると暗守が声をかけた。
「…あれが首謀者か?」
「ではない。が、あれが皆を庇ってでてきた。意思を尊重してやりたいとは思うが…けれど真犯人を野放しにしておくつもりはない。」
すると端にいた美珠が声を出した。
「あの方は、国明さんがお酒でつぶれた日、朝早くから竜舎を一人で掃除していらっしゃいました。」
「あいつが掃除を。そうでしたか。」
「ええ。きっともう騎士としての心構えのできた方なのかもしれません。」
「仲間を庇うこと、それは否定しません、ただ、時と場合によります。」
「確かにそれはあるかもしれませんね。」
重い空気になると美珠は思い出したように声を上げた。
「それにしても、私も各団を見て回るようになってたくさんの知ったことがあります。」
「ほう、どんなことです?」
調子を合わせた魔央の言葉に美珠は微笑みかけた。
「最近の驚きは魔希君が実は後輩にすごく厳しい先輩ってことですか。」
「ハハハ、あれは張り切ってるんです。やっと後輩ができたから。」
「それに光騎士の練習は日が昇って一時間したころ鎧が輝いて見えてすごく綺麗なこととか。最近は暗黒騎士さんの新人さんで誰が一番体力あるかも分かってきました。」
そして満足そうに美珠も微笑んだ。
「でも一ついえることは、皆さん本当に心を持って仕事をなさっているということ。嫌々やっておられる方なんて一人もいらっしゃらないから。私と同じ世代なのに、逆に焦ってしまいます。」
「美珠様は良くやっておいでです。さてと、美珠様、よろしければ私が剣術のご指南をいたしましょう。」
「本当ですか?聖斗さん!嬉しいです。昨日、三十週外を走って体のなまりの感じたので是非!」