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紅の章 第二十八話 ドMな団長

「お疲れ様でした。」

 騎士になって二年目の二人が国明に汗を拭くための布を持って立っていた。

「まさか、団長が四十五週も走られるなんて。」

「俺たちは三十週でもキツイです。」

 国明は息を整えると布をもらって汗の滴る顔を拭いた。

「姫様のおかげで三分以上、負けずにすみました。俺たちの命を救ってくださった姫様に感謝ですね。」

 暢気な顔で姫へと思いを馳せた騎士のその後ろから声をかけたのは国廣だった。彼もまた楽しいものを見るように国明を見ていた。

「あの美しいお嬢さんの分、半分肩代わりされるとは。自分で木刀を折ったにも関わらず。あなたドMですね。」

「あの人の分、半分走ると言っているのに、それは気に食わないと、結局三十週走っていかれたがな。言った手前、半分走らないとこっちだって格好がつかないだろう。」

 国明は柄杓で水をすくうと、思いっきり頭からかけた。その隣を、まだ新人の騎士たちが三十週走り終えられず、走り抜けてゆく。

「で、ドM団長様、決済を頂きたい書類がございます。」

「わかった。さてと、仕事をしてくるか。お前達新人の世話頼んだぞ。」

「はい!」

 何よりも尊敬する団長の命に騎士達は嬉々とした表情を浮かべ、敬礼した。


 その夜、突然宿舎が騒がしくなった。

 国明は居間で先輩騎士相手にチェスを興じていた。

「おい、国明!それはないだろう!」

「はあ?またですか?」

 国明は動かしていたナイトを戻すと、先輩騎士の困惑した顔を眺める。どんな手を相手が出してこようが、もう国明の頭の中では勝ちは 確定的なものになっていた。

 そんな時、若い騎士が国明のそばに跪いた。

「どうした?」

 騎士は国明の耳元に囁いた。

「新入団員数名が教会騎士と諍いを起こしたようです。」

 頭を抱えたくなる事態を平静な顔でやり過ごした。

「それで、けが人は。」

「こちらは誰も。むしろ誰かもわかりません。ただ向こうは骨折者がいるようで、その者が相手は国王騎士だったと。」

 先輩騎士は国明の顔色を読み取って、終了することに決めたが、負けるのも悔しいので駒を手でかき混ぜてしまった。

「残念だがな今日は終わりだ。仕事だろう?」

「ええ、ありがとうございます。まあ、駒の位置は全て覚えてますが?」

「おいおい、今回は引き分けだろう?」

「そうですね。すぐに教会騎士団へ行く!二年目!」

 すると談笑していた若い者達が走り寄った。

「新人の居所を今すぐ確認しておいてくれ。」

「はっ!」

 他の騎士たちも非常事態が起こったことがわかると顔をこわばらせ、機敏に動き始めた。

 国明は基本的に穏やかな人間だが、意志を曲げぬことは知っている。

 あの戦いの後、国王騎士団長はほかの団や、兵士たちと諍いを起こしたものたちを一斉に調べさせた。

 そしてある村で子供たちを殺した騎士、そしてその時彼らと一緒にいたものを実名を挙げ公にさらして厳罰に処した。その為、今その時の者達はここにはいない。

 それがこの団長の意思だと皆知っていた。

 無表情な顔で歩き出した国明の後ろには影のように国廣がついた。


 教会騎士の詰所に足を踏み入れると、魔央が、数人の魔法騎士を連れ て着いたところだった。

 目で挨拶し、国明が扉を叩くと、教会騎士が扉を開けた。中では騎士数人が団長を囲んでいた。どうやら事情を整理しているようだった。

 椅子に座っていた騎士団長は顔を二人の団長へと向けた。

「早いな。」

「けが人が出たと聞いた。」

「新人が三人。国王騎士は七人がかりだったそうだ。」

 聖斗の表情はどこまでいっても読めなかった。怒りを感じているのか、呆れているのか。

「そうか。」

 しかし、国明もそれだけだった。

 何も分かる前から謝ることもできなかった。

「こちらは今調べている。」

 それだけ言うと背を向けた。

「国明。」

 呼び止められて振り返る。

 まっすぐ聖斗が国明を見ていた。

「一人は白い鞘の見事な剣を持っていたそうだ。」

「そうか・・・。」

 それを想像させる男は一人だった。朝、それを自慢する新入りを見た記憶があった。

「明日の朝までにはこちらも報告する。」

「ああ。」


 国明と国廣は部屋からでて顔を見合わせた。お互いの顔色は珍しく同じだった。

「それほど木刀が気に入らなかったのか?」

「でしょうね。」

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