紅の章 第二十六話 国王騎士の訓練
「へえ、いい剣だな。」
先輩騎士たちの目は一人の少年の剣に向いていた。
白い鞘にはエメラルドの宝石が散りばめられ、刀身も名匠の作った作品と一目で分かるような白銀の輝きを放っていた。
「ええ、これは国の特級鍛冶の手によるもので騎士に入団する際に父が手渡してくれた剣なのです。この国を守る騎士ならばと。」
その隣で友次は古びた剣を帯びていた。
少年はそれに気がつくと自分のものと比較させるように並んだ。
案の定、そのことに気づいた騎士が声をかける。
「なんだ?お前の随分使い古されてるな。」
「あ、育ての親の剣なんです。」
「育て?」
友次は一度黙り込んでから、蚊の泣くような小さな声で呟いた。
「はい。僕、両親…いないから。」
「なんだって?孤児?大変だったなあ!しかし、まあそれでよく騎士になれたものだ。」
わざわざ聞こえるように大声で発せられる言葉に友次は恥ずかしそうに顔を伏せた。そんな時、手を叩いたのは副団長国廣だった。
「はい、静かに。今日から暫く練習は木刀を使います。自分の剣は片付けてください。」
「どうしてですか!木刀なんて!訓練所ではもう真剣で戦ってまいりました。今更木刀なんて!」
少年は自信があるからこそ国廣に噛み付いた。
剣の技を皆にひけらかし、自分の剣を自慢したい。
この剣のよさを自慢したい。それがありありと顔に書いてあった。
「君は?」
「安緒と申します!」
「ああ、寧妍の太守の息子というのは君かね。」
いたって国廣の顔は冷静だった。
けれど安緒は違う。
地元は農業地帯としてこの国の倉とまで言われている場所で、そんな場所を治める父はこの中央政界に顔が利いているはずだった。
そこで注目がまた集まると思った。
「はい!」
「君は幼い頃から名を馳せたようだが。」
安緒の顔が知ってるじゃないかという風な自慢げなものになってゆく。
「はい。地区ではこれ以上強いものはいないということで。」
「そんなものここでは無意味だよ。そんな飾り、あったって生きていけない。早く木刀を持ちなさい。」
けれど相手は自分の出身地、経歴を聞いても媚びるということはなかった。その上、有無を言わせない言葉に木刀を持たされた安緒は歯軋りすると隅へといった。
「では、今から戦闘訓練を行う。木刀が折れたもの、戦闘が不能になったものは戦列から離れるように。最初の三分までに負けたものは、王城の周囲三十週とする。なお、最後まで残ったものは食事を無制限に食べていい権利だ。」
「こんなの優勝者国明だろ。隣で狙われたくはないし、国明から離れとこう。」
国明の隣で木刀を選んでいていた杜国はそそくさと離れていった。
「では、開始!」
安緒はまず最初に隣にいた友次を狙った。
これなら簡単に倒せると、自分だって一〇一人、一本勝ちをして実力をおもい知らせてやろうと。
そんなことを考えていた。
けれど木刀は受け止められた。自分が力負けするほどの力で押し返される。
「やるなあ。あいつ。」
国明は安緒と友次に目を遣っていた。
打ち込むほうも受けたほうもかなりの使い手になる、そう予感させるものがあった。
「楽しそうですね。」
女の声に国廣は頭を下げた。
「なんでしたら?ご参加なさいますか?」
国廣にとっては意地悪のつもりだった。
この姫はきっと剣一つ満足に握ることなど出来ないと思っていたからだ。
けれど、後ろの女は楽しそうに笑って箱に無造作に入っていた木刀を一本持った。
「あ、あの!」
国廣は少し慌てた。
素人が木刀を握るほど怖いことはない。
けれど姫はずっとにこやかな笑みを浮かべていた。
「大丈夫です!私の獲物は決まってますから。できれば、三分以内に勝負をつけますね!」
国廣は驚いたような顔をしてから、彼女の標的が分かったように頭を下げた。
「ボコボコにしてください!たまには!」
「はあい!」
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