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紅の章 第二十一話 新たに騎士となるもの達

 その日は朝から五種の装束を来た騎士たちがひっきりなしに廊下を歩き回り、異様な緊張感が城を包んでいた。

 そしてその足音がぴたりと止んだ頃、王城の門を一つ抜けた場所には栄光を求める者たちの姿があった。

 右に教会騎士、暗黒騎士、魔法騎士、左に国王騎士、光騎士。

 その前に横一列に並んだ五人の騎士団長、その瞳が揃ってその騎士の間に立つ者たちへと向いていた。

 左右に分かれた騎士達の真ん中を縫うのは五色の軽装備の若者。

 彼らはこの日、騎士団に配属される若者たちだった。

 前に立つ騎士団長、そして周りを取り囲む騎士に気圧されない様に虚勢とも言うべき自信を身にまとい、この栄誉のある日を待ち望んできたものたちだった。

 一つの太鼓とラッパの音と供に、騎士団長たちが前を向いた。

 そこには玉座が二つあった。

 もう一度、太鼓とラッパの男が響くとこれから一生忠誠を誓う主が三人が姿を見せた。

 白い布を当てた男は少しの体の不自由さも見せず、威風堂々としていて、司祭の装束に身を包む女性はまるで初めて会った自分すら包み込んでいるというほどの深さを持っていた。

 その姿に感激し、泣き出す若者が毎年少なくない。

 青い鉢巻を巻いた少年は立つのがやっとだった。

 まだ成長途中の体に、ほかの誰にも負けないほど輝き、そして次第に潤んだ瞳で国王、教皇、姫、そして国王騎士団長を見つめていた。

 泣く理由は何だと問いかけられてもただ感動したとしかいえなかった。

 先日の戦闘でこの国を救ったという姫は自分とあまり変わらない年だというのに、物怖じせず笑みを浮かべてまっすぐ自分たちに視線を送りながらその場に立っていた。

 たった一人しか使えないという奥義でこの国を守った英雄、国王騎士団長。その噂が広まっていたせいか、今年、国王騎士を希望するものが多かったが、自分は勝ち残ってきた。

 やっと、入団できた。

 その思いでいっぱいだった。

 全部で数十万人の応募者をふるい落とす為、計六回行われたの騎士の試験は、途中で発狂しそうな夜もあったし、人を信じられなくなりそうな瞬間もあった。

 けれどこの国を守る、この国のために戦う。

 そして師匠と仲間達の悲願を自分が果たす。その一心でここにたどり着いた。

 それがこの若者、友次(ともつぐ)の全ての感動へと繋がっていった。



 国王騎士の独身者が暮らす寮はその日、お祭りのように盛り上がっていた。騎士寮の説明は二年目の騎士たちが行い、その後、広間で歓迎会が催された。

 騎士達はその中で団長という特別の肩書きを持つ騎士を必死に探した。けれどどこを見ても自分達を面白そうに見つめる男達ばかりで、光り輝くような騎士は見当たらない。

 それでも目を凝らしているときに、壇上に一人の騎士が姿を見せた。

 新人の瞳が団長だと確信し、輝き始める。けれどその男ははじめに断った。

「団長は公務でこれなくなった。私は副団長の国廣(くにひろ)だ。」

 その言葉が新人騎士達の気持ちを消沈させてゆく。

「今年は三十八名の新入団員を迎えることができた。君たちの入団を歓迎しよう。乾杯。」

 新しく入ってきた新人たちが団長に会えぬという悲しい感情が底へと到達する前に先輩騎士たちに囲まれてゆく。 

 そして乾杯のために持たされた杯を満たす酒を入れられた。

「お前、名前は?」

 少年は聞かれて顔を上げた。

 短く刈った黒髪にキリリとした意思の強そうな眉と瞳が印象的な少年だった。彼もまた漏れなく消沈していた一人だった。

「あ、友次っていいます。」

「へえ、出身は?」

「あの。」

 友次は言うのが憚れた。

「ま、いっか、そんなこと、どうでも!おい、飲め飲め。」

 先輩騎士三人が一人の少年の杯を満たして行く。

 断ることなどあってはならないという空気だった。

 周りの者達にチラリと目を遣ると、皆数人の先輩に囲まれ杯を干していた。

 友次はそれを見て覚悟を決めて口をつけた。喉にひどく不味い薬を飲んだような後味の悪さと焼け付くような感覚が残る。

「お、いける口か?」

 楽しそうに先輩が再び杯を満たした。

 逆らいもせずひたすら飲んでいると、頭の中がぐるぐると回りだすしたが、拒否する方法はどこにもなかった。


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