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紅の章 第二話 流れ作業

 病院ができるのは王都の中心地。この国の一等地だった。

 美珠の到着を今や遅しと待っていた上席の工事関係者、数十人は馬車が見えると頭を下げ迎え入れた。

 美珠が馬車から降りると、まず美珠よりも背の低い白髪の細い老人が彼女の前に進み出て恭しく頭を下げた。

「美珠様。ようこそ、おいでくださいました。」

「この方が今回の設計をして下さった、国の特級建築士の犀帽(さいぼう)殿です。」

 相馬がかしこまって声を上げると、老人は頭を下げた。

「お目にかかれて光栄です。これほど嬉しいことはありません。姫様の公共事業第一弾に関われるなどと。生きていて良かった。もう図面はごらんになられましたかな?」

「ええ。」

「では、改めて説明させていただきます。おい、犀競(さいぎょう)そっちを持たんか!」

「はい、父さん。」

 父よりもかなり背の高い若いどこかのっぺりとした顔の男が駆け寄って模造紙の端を握ると、老人は勢いよく図面を開いた。

 それは朝、相馬が見せた図面と同じものだった。

(私は神様ではありませんってば!)

 否定したい気持ちを押し殺し、犀帽の言葉に耳を傾ける。

「如何でしょう?美珠様の初事業と聞きまして私も力が入りました。なんせ、この国を守ったお方なのですから。美珠様の神々しさは自然に出たのです。」

「あの、それなんですけれど。」

「おお、気に入っていただけましたか?」

 老人は褒められたと思い涙を浮かべて美珠を見つめていた。

(いえ、あのそうではなくて!ああ、言いにくい!)

 美珠が戸惑っていると、

「では、次に、建物についてご説明させていただきます。」

 次に来たのは中年の工事責任者だった。

「え?あの!」

 あらかじめ打ち合わせをしてあったのだろう。流れ作業のように美珠を連れてゆく。

 美珠と工事責任者の前の地面には杭がささり、そこに糸が張ってあった。

 建物の向こうの端の杭は見えない。外周だけでもかなり大きなものだった。

「巨大な建物ですね。」

「ええ、数百年民の暮らしを支え、そして美珠様の名前がいつまでも残つ建物となります。」

「私の名前など、どうでもよいのですが、みなさんの暮らしに役立てられるのなら。」

 美珠の言葉に工事責任者は頭を下げた。

「なんとご立派なお考え、これができればこの大陸でも類を見ない高度医療ができるようになります。魔法騎士だけではなく異国の医者を呼び、技術も上げられる。」

「そうですか。私、医療には詳しくありませんが。これで皆さんを守れるのであれば。」

 美珠が工事現場を視察するまわりでは王都のものたちが「美珠姫」を一目見ようと押し合い、その外に国王騎士団長の追っかけの女性達も集まって黒山の人だかりができていた。

「ねえ、手でも振ってあげたら?喜ぶよ?」

 相馬はそんな人々に気がつくと美珠にそっと囁いた。

「手を?」

 美珠が言われるままに手を上げると民から歓声が漏れた。

「見世物かしら、私。」

「見たいんだよ。見せてあげなって。」

 その人で多さのために騎士たちは整理に追われていた。

 国明は視線を走らせ、不審者をその中から探していた。

 たまに追っかけの女性たちと目が合うと歓声が漏れる。

「団長様!こっちを見て〜。」

「国明様〜。」

 けれど国明は表情を崩すことがない。それがまた追っかけの魂に火をつける。

 彼に微笑んでもらえる一人になりたいと。

「しかし、団長もすごい人気ですなあ。」

 犀帽がそれを見て声をかけた。

「ええ。」

 ふと美珠と国明の瞳があった。

 城の中なら微笑んでくれる国明だが、外に出た国明は美珠と視線を合わしても微笑んでくれることはない。

 姫と騎士としての職務を全うしようとしていた。

 けれどどこかで微笑んで欲しかった。

 二人だけが分かる何かでもいいから、どこか何かで繋がっていると思いたかった。

 それもまたどこか美珠が寂しく思う一因だった。


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