紅の章 第十八話 後光が見える?
「言えた。」
「あの絵がおきに召さなかったんですか?あれはあれで民の希望を捕らえた物だと思いますが。」
「神にはなりたくありません。私のどこに後光があるというの?見える?珠以の目に?」
「そういえばありませんね。」
国明は暫く探るように美珠の周りを歩いたが、納得したように笑うと美珠とともに歩き始めた。
暫くすると、町の喧騒の隙間を縫うように仄かな香りが美珠を刺激し始めた。
「あ、甘いいい香り。」
足を止めてそのありかを突き止めようとした。
「ああ、あの行列の先からです。」
国明とほぼ同時に匂いの元を突き止めた美珠が人の後ろから様子を伺うと、おいしそうなタルトが並んでいた。
「折角だし、帰って食べようかな。」
「並ぶんですか?これ。」
「楽しそうじゃない。ね。」
美珠はその列に並ぶとはやく来いといわんばかりに国明を手招きした。
国明は行列に並ぶ女の子たちの目を引いた。
あまりにも整った顔に綺麗な立ち姿。
小さな歓声のようなものが漏れる。
そして最後尾に並んでいる美珠の横に立っても、女の子たちの視線はまだ投げかけられていた。
平素視線など気にならない国明だったが、可愛い店のまえの大行列に並ぶというのはかなり抵抗があるようだった。
けれど姫一人を置いておくわけにも行かず美珠のそばに付き添うことにした。
美 珠が微笑んでるならよしとするかと自分の中で結論付けたまでは良かったが、それからも、増え続ける列に頭一つ飛びぬけている国明はかなり目立つのか、菓子だけではなく、国明見たさの女の子たちが増え、列は通常よりもかなりの伸びを見せた。
「戻りました。」
美珠が戻っても、父はまだ母の部屋で書類にサインを続けていた。気を抜くと母にかなり冷たい視線を向けられたのかもしれない。美珠がついているときとは比較にならない速度で書類に目を通していた。
「お父様、まだ頑張ってらっしゃるの?甘いものお土産にかってきたの。皆で食べましょう?たくさんあるのよ。」
美珠は両手にタルトを持った箱を掲げた。
国明も後ろで箱を持たされて立っていた。
「聖斗さんも、一緒にいただきましょう?あ、でもお夕飯が先よね。そうだ、手の空いておられる団長がおられたら一緒にお夕飯いかがかしら。」
美珠は嬉しそうに微笑みながら箱を開けて思いついたように声をかけた。
両親は朝とは打って変わった美珠の顔と声に満足し、顔を緩めて、美珠へと寄ってゆく。
そんな二人に美珠は極上の笑みを見せた。
「そうね、聖斗、控え室で皆に声をかけて。命令ではなくて美珠からの誘いだと。」
「はい。」
聖斗は表情を変えることはなかったが、どこか優しい返答をして扉に手をかけた。
「じゃあ、俺は相馬と珠利を。」
「うん。珠以、よろしく!っと、じゃ、なかった。はい、お願いします。」
聖斗は国明とともに部屋をでた。