黒の章 第三十一話 姫がいる場所に
二日後、
王都の正面通りはざわついていた。
瀕死の暗黒騎士とよたついた竜が大通りを進んでいたからだ。
「どうした!」
すぐに警備にあたっていた国王騎士が駆け寄る。
騎士の姿を見た途端、暗黒騎士もそしてここまで彼を運んだ竜もすこし気を緩めたのであろう。
竜が膝を折って崩れ落ち、暗黒騎士が投げ出された。
そして竜は力を全て使い果たし、その場で息絶えた。
けれど瀕死の暗黒騎士にはまだ仕事があった。
伝えなければならないことがあるのだ。
だからこそ、国王騎士を必死に掴んで引き寄せた。
「教皇様を! 王を! 美珠様が」
国王騎士の一人がとんでもないことだと察知し、暗黒騎士を担ぎ自分の竜に乗せると、もう一人が笛を吹いた。
暗黒騎士を連れた国王騎士はそのまま王城に入ると、彼の言葉を王へと届けるためつれてゆく。
「何があった!」
すぐにそれを見つけた光騎士が肩を貸した。
その二人の耳には
「美珠様が、美珠様が」
たわごとのように呟く暗黒騎士の言葉だけが入った。
*
国明が部屋へと駆けつけた時、崩れ落ちたように座りこむ暗黒騎士が部屋にいた。
それに一呼吸置いて、国王と光東。
暫くしてから教皇と聖斗が駆け込んできた。
誰もがこの報告が悪いものだと確信していたが、どうしてもそれを問う勇気が出せなかった。
けれど暗黒騎士は教皇を見ると手を突いてそして叫んだ。
まるでそれが彼の断末魔であるかのように。
「美珠様が身罷られました」
信じたくはない最悪の言葉にその場に座り込む教皇、目をむいたまま立つ国王。
「どういうことだ!」
叫んだのは国明だった。
首を振ってその言葉を否定しながら、暗黒騎士の前にしゃがんで目を見て問いかけた。
「珠利は! 騎士団長は何をしていた!」
「魔法騎士団長はもう明日やも知れぬお命、暗黒騎士団長、珠利様、相馬様は私が向こうを出発したときにはまだ見つかっておりません。爆発に巻き込まれたのです! ただ魔法騎士魔希の証言によると美珠様は賊に胸を貫かれたと」
「賊に……貫かれただ?」
国明の知っている珠利は、騎士団長達は賊なんかに負ける者ではない。
彼らの実力は知っている。
そうやすやすと姫の命を奪われ、彼ら自身が傷つくはずはないのだ。
「そんな馬鹿な!」
暗黒騎士を問い詰めようとする国明を聖斗が引き離すと、声を失い今にも倒れそうな教皇へと視線を送る。
教皇は受け止められず、何度も何度も首を振って、夫の腕を縋るように握っていた。
国王もそんな教皇の手を包みながら、聞きたいことを聞けないのかもどかしそうに口を開いては閉じていた。
そんな部屋で、動けない美珠の両親に変わって動いたのは後からかけつけた数馬だった。
息子相馬が行方不明となったにも関わらず、誰よりも気丈だった。
「ただちに飛竜を集められだけ集めろ。着いた飛竜から順に騎士を乗せ、北へ向かわせる。あと北方将軍をよべ! 騎士団長ども、行くぞ! 支度をせい!」
その言葉に国明は立ち上がり、部屋を飛び出た。
どこよりも一番早く、姫がいる場所に着けるように。
こんにちは
訃報が王都に届きました。
まさかの展開。
美珠のもとへ向かう彼らがみるものは!?