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黒の章 第二十九話 夜襲

「驚いてくれたかな。美珠様」


「ああ、きっと喜んで下さってるだろう」


「はあ、早く美珠様に感想聞きたいな」


 魔央と魔希は消えてしまった夜空の絵画をまだ眺めていた。

 どこか晴れやかな顔で。


「俺、絶対あの国王騎士団長だけは許さない」


「魔希、そんなこと大声で言うもんじゃない」


「だってさあ、俺だって魔央に実は子供いましたっていわれたら平気でなんていられない。絶対、笑ってなんていられない。きっと呪いの一つでも掛けに行く。でも美珠様は笑ってる。無理して笑ってるんだ。そんな風にさせたあいつが憎いよ」


 魔央は相馬から手渡されたモチーフの下絵を折りたたむと、目を閉じた。

 魔央にも信じられない出来事だった。

 まさかこんなに早く、二人に終わりが来るなんていうことは。

 似合いの二人だと認識していたのだから。


「国明に限ってそんな事はないと思ってたのだがな」


「そうだよ、あの馬鹿団長! 美珠様命みたいな顔をしてさ、男なんてそんなもんだよ!」


「お前だって男だろ」


「あんなくそ団長とは人種が違うんです!」


 魔希は一緒にするなという言葉と白けた視線を隣の魔央へと持ってゆく。


「本当に魔央もしたら、許さないからね。殺しに行くよ。俺、魔央の子供なんて産めないし。お前を好きだっていう気持ちしか、女と張り合えるものなんてないんだから」


「それはこっちだって同じ条件だろう? おまけにお前の方が若いし、これから色んな出逢いもするだろうし。でも。お前は私の老後、面倒見てくれるんだろ? ずっといてくれるんだろう?」


 魔央の余裕の笑みに魔希は顔を赤らめて魔央の袖を取った。


「うん。ずっといっしょにいる。魔央といたい」


「私もだ」


 真っ赤になった魔希の顔を魔央は優しい顔で一度なでて、軽く口付けあった。

 そして魔希は魔央の胸に顔を埋めて、お願いをしてみた。

 

「今度さ、美珠様が落ち着いたら、温泉、休みとってこよう?」


「そうだな。旅行でもするか」


「おっし、絶対約束だからな」


 魔希が嬉しそうに右手の小指を出すと魔央も頷いて右手の小指を出した。 


「ああ、約束だ」


「よし!」

 

 微笑み合う二人の傍を雪がちらついた。


「雪だ。さ、戻ろう。ね、俺も美珠様の所に行ってもいい?」


「ああ、顔でも拝みに行くとするか」


 気持ちを騎士へと切り替え、踏み出した魔希の背中に冷たい何かが張り付いた。

 それは視線。

 慌てて振り返り、その正体を探る。

 魔央は何も言わず、鋭い目つきで杖を握っていた。

 彼も感じたのだ。

 この気持ち悪さを。


「魔希、お前は美珠様のところへ」


「はい」


 魔央はその場で四方へと目を遣る。

 凍てつく冷気と視界を奪う白い結晶。


「全く、どこのどいつだ」


 気配を探り、自分の気を建物全体へ配る。

 けれどその時、最悪の事実を知った。

 もう、全てが手遅れだと。


「美珠様!」


 振り返ろうとした魔央の体を高速で何かが貫いた。

 それは団長である魔央も気がつかなかった一瞬の出来事。

 雪の上に大量の鮮血が飛び散る。

 魔央は血が噴水のようにあふれ出る腹を押さえながら真っ白い雪の上に倒れた。


「魔希」


 思い浮かんでくるのは主でも、姫でもなく、たった今まで一緒にいた可愛い恋人だった。


「魔……希」


 魔央の生が終るその瞬間、魔央の目の前に野犬がいた。


          *


 突然、爆音が館に響いた。

 人が巻き込まれ、悲鳴が各所から聞こえてくる。


「何?」


 相馬は爆発した建物のすぐ前にいた。

 信じられない爆音と衝撃とともに、突然、建物を構築していた壁の一部が頬を掠め、飛んでゆく。

 ぶつかっていればきっとその衝撃で即死だっただろう。

 相馬は異様に跳ねる心臓を必死で押さえつけながら、それでも平静を装い情報を集めようとした。


「どういうこと、これ!」


 そのとき、頭の中に浮かぶのはたった一人の女性のこと。

 恋人ではないけれど、守らなければいけないたった一人の女性。


「俺は執事だ! 美珠様のところに戻らないと!」


 振り向いた途端、相馬の真横で爆発が起こった。

 見開かれた相馬の瞳に炎とすさまじい衝撃波が押し寄せる。


「美珠様―!」


 相馬はすさまじい炎と砂煙に呑みこまれた。


           *


「相馬殿!」


 巻き込まれた相馬を確認した暗黒騎士達の声の隣を暗守は走っていた。

 仲間としてならば相馬を助けてやらないといけなかったのだろうが、彼の最優先事項にはならなかった。

 騎士団長として、自分が盾となり、王族を守らなければいけないのだから。

 

 なのに、こんな時に自分が彼女から離れてしまった。

 心を押し殺してでも、傍にいなければいけなかったのに。

 欲を出した。

 彼女に避けられるような最低の行いをしてしまったのだ。

 自分が信じていた男が、自分の心から敬愛する姫を捨て、その姫があんまり健気だからこそ、自分の中で押し込めていた感情が爆発してしまった。

 踏み込んではいけないところへ無理やり踏み込んでしまったのだ。


「私に与えられた罰ならば、私一人に与えてくれればよいのに」


 今は兎に角走るしかないのだ。

 先に戻った美珠の部屋へと。

 彼女を救うために。

 

 各所から爆発が起こり、悲鳴が上がる。

 その尋常ではない空間の中、何人かの騎士が美珠の下へと向かっていた。

 皆、取り付かれたように走ってゆく。


「魔央は!」


 その騎士の中にいたのは魔希だった。

 魔希は暗守を見つけると後ろへと視線をやった。


「何かと戦っているはずです! 俺は美珠様を」


「ああ」


 火がまるで生き物のように騎士を飲み込み吹き飛ばす。

 そんな中、二人は必死に階段を駆け上がった。

 建物の奥の部屋に美珠の部屋がある。

 そこにいる少女のもとへと。


今日もアクセスありがとうございます!


どんどんどす黒くなってゆく「黒の章」でございます。

魔央が倒れてしまいました。

そして相馬も爆発にまきこまれてしまいました。

果たして美珠は!?


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