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黒の章 第二十一話 碧の鎧

 昼ごろ、美珠の部屋の扉が叩かれた。

 侍女が扉を開けたときに見えた青のマントで一瞬美珠は国明がやってきたのかと思った。

 

 全部終わったと。

 もう元に戻れる。


 そう言いに来たのかと淡い期待を抱いて扉へと駆け寄る。


 けれど違った。


「国友と申します」


「あの、珠利の」


 その言葉に国友は頭を下げ、美珠の前に跪いた。


「少し、お時間よろしいですか?」


「ええ。楽にして。そこに座って」


 国友は遠慮がちに浅めにソファに腰掛けると、物怖じせずに美珠をまっすぐ見た。


「珠利さんのことです」


「珠利? 何かあったの?」


「こんな話を姫様に聞くのもおかしな話なんですけど、珠利さんの様子がおかしいんです」


「え? 珠利の?」


「避けられてるっていうか」


 国友は困ったようにポリポリと頭を掻いた。


「公演の日までは珠利さん、すごく楽しそうで。でも今は忙しいのか、ちゃんと話もしてくれなくて」


「嫌がられてるんじゃない?」


 書類を小脇に挟んで部屋に入ってきた相馬は不安そうな少年に冷たくいいのけた。

 そんな相馬の嫌味を真に受けた国友は唇に手を当てて、一人言葉を発する。


「キスしたのが、いけなかったのかな。先に好きだって言えばよかったのかな」


 相馬はその言葉に持っていた書類を全て落として、ぐっと相手を睨みつけた。

 完全にキレた目をして。


「何でそんなことここに言いに来るんだよ。馬鹿じゃないのか、お前」


「あの、お二人は珠利さんの家族なんですよね。珠利さん、公演のあと、一緒に飲みに行ってそう教えてくれました。珠利さん孤児なんですよね。俺も孤児だし、家族に憧れる気持ち、すごくわかるんです」


「珠利が家族って言ってくれてたんだ。嬉しい」


 珠利の言葉は美珠の心をじんわり温かくした。

 美珠だって珠利が大切で仕方ない気持ちは変わりない。

 

 そして美珠は思い出した。

 

 確か、珠利は出かけた次の日、聞いて欲しいことがあると言ってた。

 けれどそれを聞いてあげる余裕は自分にはなかった。


(この人のこと、相談したかったんだ! ごめん珠利!)


「分りました。聞いておきます」


 国友はその言葉に感謝し、満面の笑顔を作った。


「ありがとうございます」


「あ、ねえ」


 立ち上がった少年に美珠はもう一つ聞いてみることにした。


「重い質問だったらごめんなさい、あの、珠利と結婚するつもりとかあるの」


 すると少年はまた嬉しそうに頭を掻いた。


「じゃなかったら、誘ったりしませんよ。年は珠利さんの方が上だけど、俺は絶対強くなります。珠利さんのこと絶対に幸せにしますから」


 そんな熱い心が美珠の胸を激しく打った。


(珠利、素敵な人と出会ったのね)


 きっと今の精神状態だったら、

 他の女の子の恋の話であれば嫉妬して、壊れてしまえと思ったかもしれない。

 聞きたくないと泣いて怒ったのかもしれない。


 でも、珠利の話なのだ。

 いつも守ってくれる、幼馴染のことなのだ。

 そしてそんな幼馴染が愛されている。

 少し年下の、優しそうな騎士の少年に。


 少年が丁寧に頭を下げて出て行くと、美珠は相馬を見た。

 相馬も美珠を見ていた。


「言いたいことは分ってる。あのガサツ女、捜してくる」


「さすが有能な執事さん」


「はいはい」


 相馬が出て行った後、美珠は大切な大切な幼馴染の女性を心に思い浮かべた


「ごめんね、珠利」


 美珠が息を吐くと侍女、千佳がそんな美珠を励ますように、声をかけてきた。


「美珠様、温泉などいかがですか?」


「え?」


「私の父の領地はここから北なのですけれど、よい温泉をいくつか持っております。王都でのお疲れを癒されてはいかがです? それにそういうところなら、女の子同志、話も弾むでしょうし」


「温泉?」


「はい。一度公務を離れられてぼんやりされるのもよいかと思うんです」


 美珠と同じ年の侍女、千佳はそう言って穏やかに笑ってくれた。


「ありがとう、考えておくわ」


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