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黒の章 第十四話 満足な少年少女と悲壮な少女

 部屋の中央にはすでに客人が座り、侍女頭からちょうどお茶を受け取るところだった。 

 流行のレースを裾から覗かせ、胸元にも大きなレースのリボンをあしらった桃色のドレスを纏った女性。

 それは美珠にとって信頼できる人間の一人。


「お邪魔しております」


「あら、初音ちゃん、来てくれてたの? ごめんなさいお待たせして」


 すると初音は小さく首を振って、小さな小さな声を発した。



「美珠様、突然申し訳ありません」


「いいのよ、どうしたの?」


「昨日はご配慮ありがとうございました」


 うまくいったのだと、その言葉で感じた美珠は顔を緩めて、隣にいた相馬と目を合わせた。

 相馬のお手柄をたたえるように。

 すると相馬もその姫の視線に応える様に眉を上げると初音に声をかけた。


「それで? どうだった? 世界の歌姫は?」


「ああ、あの、歌姫よりも美珠様のほうが素敵ですよ」


 想像だにしていなかった突然の言葉に美珠は噴出して、初音の前に座ると、侍女頭が美珠にもお茶を置いた。

 濃い琥珀色のお茶を一口含む。

 程よい渋みを感じ、美珠は仕事の後の達成感に浸っていた。

 

 けれどその前で初音は目線を下げて、切り出した。


「国明様とはもうお話に?」


「え? 少し話はしたけれど?」


「あの、」


 けれど初音だって美珠の表情を見ていれば分る。

 まだ聞いていないのだ。


「何か? 国明が隠してるってこと?」


 相馬と共に早く話してと言わんばかりに初音に目を向けた。

 初音は暫く顔を強張らせて黙っていたが、唇をぎゅっと噛むと笑顔を作った。


「いいえ、おかしなことを申し上げて申し訳ありません。帰ります。実は兄が忘れ物をしたので、届けにきたんです」


「あら、そうなんだ」


 初音は今にも泣きそうな顔で、小さく一つお辞儀をして走るように退室していった。


 美珠はもう一口お茶に口をつけてから、相馬に目を向けると、相馬もまた美珠に目を向けていた。

 二人にだって初音が何かを隠していることぐらい分る。

 

 それも「国明に関すること」を。


「聞いてこようか?」


「いいわ、今夜、話をする予定なの」


「まあ、国明に限っておかしなことではないと思うけどさ。なんだろうね、かくされると気になる」


「最近、ちゃんと話をしてなかったから」


「そうかもしれないね。やたら忙しそうだったから。でも今日はゆっくり話をしなよ。俺も珠利のことで姫様放り出して悪かったと思ってる」


「あら? どうしたの?」


 相馬は照れたように顎を掻いて、軽く笑った。

 とても満足そうな顔で。


「何かさ、一仕事終えて、やっぱり、美珠様の執事でよかったっていうかさ、何か嬉しかったんだよね。美珠様の傍にいなかったら、こんな若輩者なんて政策に関われなかった。ううん、飾り物の姫の傍だったら関われなかった。だから、ありがとう美珠様」


 いつも傍にいてくれる相手から礼を言われると面映くて仕方なかった。

 へんに首がむずがゆくて美珠は相馬の背中を叩いた。


「やめてよ。私だって相馬ちゃんの有能さ、本当に分ったんだから。いつも仕事を見つけてくれてありがとう」


「昨日の夜は惨めな気持ちで一杯だったけどさ。なんていうか、人の役に立てたって言うのがすごく嬉しくてさ」


 人の役に立てる。

 今日のこの事案で夢を叶える人間が少なからず現われる。

 二人は心地よい日の光のような充足感に包まれながら体を思い思いに伸ばしてみた。

 

「慶伯にはもう知らせは届いてるかしら?」


「飛竜なら、もう着いてはいるだろう」


「項慶に少しは認めてもらえたかしら」


「きっとね」


 乳兄弟は優しく笑い合って、今頃国中に広まっている知らせに想いを馳せた。


いつもアクセスありがとうございます^^

そしてお気に入り登録をしてくださった方、ありがとうございます。


なんだか、妙に長くなってゆく『リターンズ』

それでもここまでお付き合いいただいた方には感謝、感謝でございます。

本当にありがとうございます。


まだドス黒い感ではなくグレーな感じですが、

今後、「黒の章」本領発揮ということで。


感想などいただければ幸いです☆

では、また

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