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黒の章 第十三話 恋人の鉄面皮

 次の日は、朝から冷たい雨が降っていた。

 まるで細い糸のような雨がしとしとと王城を濡らし、湿気が空気を重くする。

 そんな中、団長、珠利、相馬と国王、教皇の付き人はいつものように外で集合していた。


「おっはよう。国明、何か久しぶり」


「おはよう」


 どこか落ち着かない自分を必死で隠しつついつもと同じ自分を装うとする珠利の声、今にも祟り神へと変わりそうな相馬の声。

 声に迎えられたのは彼らの幼馴染、国明だった。


「ああ」


 どこか虚ろな顔で、一度頷くと静かに瞳を閉じる。

 一方、光東は国明をちらりと見たが、結局挨拶すらせず顔を反らした。

 

「美珠様、ちゃんと起きられたのだろうか」


「確かに、あれだけきつい酒だからな。全く」


「え? 何が?」


 暗守と魔央の言葉に相馬は耳を動かして割り込んだ。

 主のことで自分がしらないことなんてあってはいけないのだから。


「昨晩、光東にきつい酒をのまされて、潰れてしまわれたのだ」


「え? 何で、飲ませたの?」


「気分よく帰ってきたら、外でお見かけしたのでお誘いしてしまったのですよ」


 光東は商売用の笑顔を無理やり作ってそばから聞こえた声に返す。

 昨日見たことを絶対自分からは出さないように。


「外? また出ようとしてたの?」


「嫌、国明を待っておられたのだ。外で三時間も」


「うわ、健気、愛されてるね、国明」


 何も知らない相馬と暗守の言葉に国明は返さなかった。

 何も返せなかった。

 ただ視線を落とすと、また苦しそうに目を閉じた。

  


 扉の向こうには、机に突っ伏していた美珠とその両親。

 美珠は沢山の足音を聞きつけ慌てて顔を上げると、国明を見て目を輝かせた。

 二日ぶりに会えた恋人。

 やっと会えた最愛の人。

 本当は抱きつきに行きたいくらいだったが、美珠は人の目もありどうにか理性で堪えた。

 そして精一杯明るい声で恋にとを迎え入れた。


「おはようございます」


 美珠の清清しい朝の挨拶が部屋に響く


「光東、昨日、美珠にお酒を飲ませたんですって?」


 教皇の責めるような言葉に光東は笑みを浮かべた。


「ええ、あまりに昨日一日、気分がよかったので、お誘いしたんです、申し訳ありません。陛下、教皇様、すてきな贈り物ありがとうございました」


「喜んでもらえてなによりです。ね、お父様」



 それからすぐに朝の申し送りが行われた。

 いつものように淡々と報告が行われてゆく。

 そして王の付き人は最後に簡単な報告を行った。


「国王様、一件、ご報告が。吏部の官吏が昨晩、川で溺死体で見つかりました。どうやら、酒によって川に落ちたようです」


「まあ、気の毒に」


 教皇の言葉に美珠も頷く。


「美珠様の家庭教師をなさっている士蒙(しもう )殿の同僚です、将来を有望視されていただけに残念です。……さてと、今日の国王様の予定の確認をさせていただきますね」


 その官吏の死亡は、そこにいる誰にとっても、ただの小さな報告としてしか残らなかった。



 申し送りが終わると、国明は美珠へと歩み寄った。

 手が届く程の距離までゆくと美珠は満面の笑顔を作った。


「国明さん、今日はお時間ありますか?」


「ええ、美珠様。今夜、お伺いしてもよろしいですか?」


「あ、はい! 待ってます!」


 鉄面皮の国明とは違い、数日振りに直に話ができると知った美珠は嬉しそうに目を輝かせて国明を見送った。



「さてと、美珠様この後、会議だよ。もう大詰めだからね。頑張ろう」


「ええ、やっとこの日がきたのね」


 女性官吏登用。

 それがやっと内定した。

 美珠はここまで色々な意見を持つ官吏と散々話し合った。

 後は会議の内容をまとめ、国王から勅令を出してもらう。

 やっとそこまできた。


「頑張ろう」


 いきまく相馬と美珠の隣で珠利はぼんやり唇を押さえていた。

 そして困惑したように美珠に声をかけた。


「あのさ、美珠様」


「どうしたの?」


「ひと段落したら、話……聞いてもらっていい?」


「うん、もちろん! じゃあ、会議いってくるね」



 会議室では、今までともに企画を練り上げてきた官吏が着席し美珠を待っていた。

 美珠ももうここにいる官吏の名前を把握し、役職つきで名指しできるようになっていた。

 席に着くと、すぐに重臣達も現れ、王の到着を待つ。

 今日、王から女性官吏の登用についての詔が出る。 

 あと五ヵ月後の試験日に夢が叶う女性が現われる。

 嬉しいことだった。

 そして自分がそれに関われたこと。

 それも嬉しいことだった。

 

 程なくして王は国王騎士団長、光騎士団長の二人を引き連れて現われた。

 大国を率いる威厳ある王として。

 そんな王へと補佐官が書面を手渡す。


 そこには女性官吏登用の詔が書かれていた。


 王は娘の関わった案に笑みを浮かべることもなく厳しい顔で、署名すると隣の補佐官へと手渡した。


「では、この王よりの勅令を今すぐ、国中に広めましょう」


 補佐官の言葉に美珠とともにつめていた官吏たちからは歓声が上がった。

 そして一人、また一人と美珠の元へ来て握手をしていった。

 

 その後、すぐに飛竜が青空に舞い国中へと散っていった。


「どんな声が聞こえるかしら」


「さあ、どんな声かな。今から楽しみだね」


「ええ!」


 美珠は飛竜が見えなくなるまで見送ると、自室へと戻った。


いつもありがとうございます。


やっと美珠と国明、再会です。

この後、二人はまたいつものような恋人にもどれるのか、それとも・・・


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