表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/171

黒の章 第九話 公演の日

 日が傾きかけた頃、

 王を白亜の宮まで送り届け、私室へと戻った光東が、白いシャツに茶色のジャケットを羽織って教皇の私室に現れた。

 そこでは教皇、美珠、教会の三人の騎士団長達が揃って王が執務をまじめにこなすか目を光らせていた。


「では、陛下、いってまいります、じゃあ皆、あとのことよろしく」


 同僚の騎士団長たちに声をかけて、朝、手渡された王からの手紙を胸のポケットにしまいこむ。

 妙に緊張した面持ちで、その得体の知れない手紙を。

 美珠は笑みで見送ると、父と顔を見合わせた。

 話を聞かされた教皇や同僚達もすこし空気をなごませ、不安そうな光東の背中を見送っていた。


 それから少し遅れて、珠利が顔を出した。


「変じゃないかなあ」


 そう言って足を一歩だけ部屋の中に入れる。

 美珠や侍女頭が一生懸命縫った服は、濃い青のリボンのついたブラウスと同じ色のひらひらとした膝丈のスカート。

 そして侍女頭が髪を巻いて、少し化粧も施してくれたようだった。

 いつもよりも女らしい、そして妙に色気のある女性がそこにいた。

 美珠は目を輝かせて珠利へと寄った。


「よく似合ってる! 綺麗よ、珠利!」


「ええ、珠利、とても綺麗」


 教皇の言葉を聞いて珠利はちょっと顔を赤らめて頭を掻いた。


「じゃあ、いってきます、でも自信ないよ。笑われたらどうしよう」


 珠利が不安そうにチラリと目を聖斗に向ける。

 もしかしたら妹もかもしれない女性が、もしかしたら兄かもしれない男性への最終確認。

 すると聖斗も珠利を落ち着けるためか、少し口の端を持ち上げてみせた。

 珠利は一度頷くと、見送る主家族や、団長に軽く頭を下げて扉をしめた。


 また数秒置いて扉の隙間から相馬の目が見えた。

 美珠と目が合うと、まるで妖気のようなものをぶつけて、ゆっくり扉を閉めて足音だけが遠くなっていった。


「相馬ちゃんたら」


 美珠はため息交じりに机の上に乗っていたビスケットを一つとって口に放り込んだ。


「よほど相馬は珠利が好きなのね」


「素直にならないから、失敗しちゃうことに気がつかないのかしら」


 美珠はそのまま窓へと目を向ける。


(私だってお誘いされたかったなあ)


 珠利のようにドキドキした気持ちで、真新しい服を着て国明と二人でいたかった。

 匂いを感じるほど近くにいて、体温を掌や、体で感じたかった。


(何か寂しい)


 小さな小さなため息をついた直後、

 突然目の前に、黒い篭手の上に乗った真っ赤なお茶が差し出された。

 ローズヒップのハーブティ。


「我々では役不足でしょうがこれでご勘弁を」


 見上げると暗守は黒い兜の中の瞳を細めて見つめてくれていた。

 美珠は頬を緩めて受け取ると嬉しそうに口をつけた。



「珠利さん、良かった。来てくれた!」

 

 門の前で小石を蹴っていた国友を見つけると珠利は急速に恥ずかしくなって、そのまま俯いた。


「わ、やっぱり珠利さんのそういう格好、新鮮ですね」


「や、あのさ。えっと! やっぱりズボンに!」


「行きましょう、珠利さん!」


「あのさあ、本当に私でいいの? 今なら、私侍女で可愛い子を探してくるよ!」


 けれど国友はそんな珠利の言葉を聞かず、さっさと珠利の右手首を握った。

 突然手を取られ、珠利は混乱して悲鳴をあげた。


「きゃ! 何、いきなり? っちょっと、あのさ!」


 黒いジャケットに黒いパンツという少し大人びた格好をした国友は、グングン珠利の手を引いて歩いてゆく。


「ちょっと、ねえ、ちょっと」


「何ですか?」


「あの、本当に私で」


「当たり前じゃないですか!」


 振り返った国友の顔を真っ赤だった。

 それを見て珠利の緊張は一瞬高まったものの、すぐに急速にほどけてゆく。

 昨日まで、自分は遊ばれてるのかと真剣に悩んでいた。

 実は国友は自分をからかっているのだと。

 その気になってついていったら、結局は大きな落とし穴がまっているんだと、何度も自分で結論付けていた。

 けれどその赤らんだ顔と、汗ばんだ掌を感じた途端にほっとした。


「何だ、一緒じゃん」


「え?」


 珠利の独り言に振り返った国友に珠利はいつものように気軽に声をかけた。



「ねえ、目、赤いけど、大丈夫?」


「え? あの……興奮しすぎて、寝られませんでした」


「私もだよ。すごく目赤いでしょ? 目薬さしても治らなかった」


 無邪気に笑う珠利の顔を見て、国友も少し口元を緩める。


「全然、寝れなかったし、今日一日、自分が何をしてたかもまったく覚えてないんだ」


「あ、それは俺も一緒です」


 二人は顔を見合わせて噴出した。


「ああ~、なんか、すごくお腹すいてきた! 何か食べていこう!」


「ええ。時間はありますし! そうしましょう!」


「私が大盛りたべてても引かないでよ」


「小食の珠利さんの方がドン引きします! 俺、ガッツリ食べたいです!」


「おっし、私のお勧めの店に行こう!」



こんばんは☆

今日もお付き合いありがとうございます。

そしてお気に入り登録もありがとうございます。


今日はお花見をしてきました。

桜を見るといつも癒されつつも、なんか儚い気持ちになりますね~ww


そしてこっちの話の中では、

やっと、歌姫の公演の日です。

光東に珠利、公演を楽しんでこれればいいのですが…



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ