黒の章 第七話 教皇の跡継ぎ
申し送りが終わると美珠は母と並んで歩いた。
こんな風に母と仕事へ向かうのは初めてだった。
教会の者達に傅かれていると、自分は王だけではなく教皇の跡取りなのだという実感がふつふつと沸いてくる。
精神的支柱にもならなければいけないという使命感が沸き起こってくる。
「折角なのだから、遜頌、美珠の法衣を用意しておいて」
「は、かしこまりました。同じ頃の教皇様の衣服を用意させておきます」
(法衣なんて初めてです。それに、お母様が着ていた服。その頃のお母様はどんなことを考えながら教皇をしていたのでしょう?)
「ああ、そうだわ、任命式が終われば、一緒に孤児の所へ行きましょう。今日は皆とお昼を食べる約束をしているの」
「あ、はい!」
美珠は大きな金縁の鏡の前でぐるりと回ってみた。
ドレスと違う、たっぷりと生地を使用した綿のローブに、金色の蔦模様の刺繍の入った白い絹のガウン。
その衣装には母のよく使う香の匂いが焚き染められていた。
「まあ、ここまで大きさがぴったりでしたとは。黎仙様が、美珠様ぐらいのお年に召しておられたものがよくお似合いですねえ」
「そうかしら、嬉しい。ありがとう」
教会の老婆に礼をいい、外へと出ると外には背の高い魔法騎士団長魔央とまだ伸び盛りの部下、魔希が待機していた。
「あら、魔希君」
「魔希を美珠様の護衛につけます。珠利殿はお休みなのでしょう?」
「魔希君を? それは心強いです。折角だから珠利にはお休みをあげたんです。侍女頭も休みなので、一緒に女磨きに行くって」
ずっとソワソワしていた魔希は美珠の後ろに立ってからいつまでもぐずぐずしている、魔央の背中を押した。
「美珠様は俺がご案内するから、さっさと行けよ! 俺一人でできるっていってるだろう!」
魔央は部下魔希に罵られても悪い顔をすることもなく、優しい顔をしたまま頷いた。
「はいはい、こいつ、美珠様の護衛ですごく張り切ってるんですよ。では美珠様、若輩者ゆえ、至らぬ点も多々、あるでしょうが」
「魔希君は、鬼軍曹ですもの、ちゃんと言うことは聞きますよ」
「では、失礼いたします」
魔央が先に任命式の準備のために去ってゆくと、魔希は更にソワソワして目を始終動かしながら美珠に声をかけた。
「任命式まで、少し時間がありますから教会を散策されますか? よろしければご案内いたします」
「そうしましょうか。ではお願いします」
「しかし、久しぶりですね。美珠様のお供するのは」
「ええ、あの廃墟以来ですね」
美珠は魔希と頷きあって共に廊下を歩いてゆく。
城とは違い、草木の生い茂る教会は、兵士ではなく孤児や一般人の姿が多くあった。
そして彼らは気軽に法衣をつけた美珠と騎士の組み合わせにお辞儀をして歩いてゆく。
どこか気軽な感じがした。
「また、別の雰囲気なんですね」
「ええ、城と比べるとそうかもしれませんね。教会には軍人は一人も居ません、官吏もおりません、いるのは騎士と教会で働く人々、あとは孤児たち」
「なるほど」
そんな美珠の足元を子供三人が駆けて行った。
「ここでは孤児たちに字を教えます。いつかひとり立ちできるように。そして、家庭を持って、守れるように。中には騎士達に個人的に武芸を教えてもらう子供もいて、中にはそのまま騎士になる者もおります」
「聖斗さんですね」
「ええ、教会騎士団長はここにいる孤児たちの憧れなんですよ。まあ、あまり気さくにお話される方ではありませんが、孤児である分、気持ちを分かっておられるので、子供達には篤く接しておいですね」
「そうなんですか」
「ええ……っつ!」
突然魔希が足を止め、美珠も何事かと足を止める。
二人の目の前に、恐ろしく美しい男がいた。
長い黒髪に、切れ長の漆黒の瞳。
黒い法衣を纏い、右手には無機質な漆黒の杖を持っていた。
そして伸ばされた左手の掌に鴉を乗せていた。
(な、何この人)
鴉のぎょろりとした漆黒の瞳が美珠と魔希の二人を映しだした途端、美珠の背中に冷たいものが走った。
こんばんは!
いつもアクセスありがとうございます。
最近、ちゃんと更新できておらず申し訳ございません。
毎日、更新したいのに!
さてと、今回美珠、初☆教皇業務です。
そんな彼女の前に現われたこの男性は一体誰?