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黒の章 第三話 珠利のためなら

「珠利さん! こんにちは!」


 朝から、元気の良い声が青空に響いた。

 高い位置で髪を纏め上げていた女性が振り向くと、長い髪がサラサラと風で揺れる。

 額から一筋、汗が顎に伝いおち、それを女は手の甲で拭うと、顔を緩めた。


「お、国友どうしたの? 午前中の稽古終わったの?」


 国友はそうですと言いた気に何度も頷くと、真っ赤な顔をして珠利に向かって大声を張り上げた。


「あの、四日後ってお暇ですかあ?」


「わ、びっくりした。どうしたの、そんなに声張り上げて。四日後? まだわかんないけど」


 すると国友はおずおずと紙を差し出した。

 その長方形の紙には、美しい女神の絵が描かれていた。


「ん? それ、何?」


「あの、チケットを! チケットを手に入れたんです。一緒に行きませんか?」


「え? チケット? あ、これ、もしかして今すごい評判になってるやつ?」


「あ、はい。そうです! そうなんです!」


 珠利は暫く眺めていたが、少し困ったように笑った。


「誰か、もっと可愛い子といきなよ」


「珠利さんがいいんです、珠利さんと行きたいんです」


 国友は一度拒否されて涙目になりながら更に珠利へと訴えかけた。


「珠利さんと行きたくてこのチケットを取ったんです! お願いです! 一緒に行ってください」


「あのさあ、私と一緒にいっても楽しくないってば、ね?」


「俺は珠利さんがいいんです! 兎に角、四日後、王城の門のところに五時! 待ってます」


 国友は珠利の手にチケットを握らせると、珠利に有無を言わさず、そのまま駆けて行ってしまった。

 珠利はそれを握ったまま、頭を掻いた。


「どうしよう。何で私なのかなあ」


 結局、相談する相手は一人だった。


      *


「さっきのあれ、一体なんです? あ、珠利」


 部屋で美珠は枕を抱きかかえて座っていた。

 が、珠利が部屋に入ってくると、美珠が話をする前に口を開いたのは珠利だった。


「四日後の夕方って何かある?」


「四日後? あ、相馬ちゃんから聞いたの? 宮にこもるって話」


「え? 何のこと? あ、あのさ、夕方空いてたら、行きたいところがあって」


 美珠は興奮した珠利の手に握られくしゃくしゃになった紙を見つけると珠利へとよって、その手を持ち上げ、ゆっくり開かせた。


「もしかしてこれ、チケット? どうしたの?」


「あ、あの、うん。そうなんだ。一緒に行こうって」


「そう! お誘いを受けたの? いいじゃない! 行ってらっしゃいよ! 何着ていくの?」


「それなんだよ~。それが一番頭痛いんだ! 何がいいと思う? でもスカートはヒヨコに馬鹿にされるし!」


「何がいいのかしら。待って考えるから!」


 美珠は散々部屋にある雑誌や衣装の本を漁った後、侍女を呼んだ。

 呼び鈴でやってきたのは、二十代後半の美珠の侍女頭だった。


 丸い顔をした侍女頭は話を聞いて、珠利をすこし不躾に眺めながらやがて呟いた。


「そうですねえ、珠利様は美珠様よりも少し背が高くてらっしゃるから。美珠様の服はかりもののようになってしまいますし」


「ああ、やっぱり着る服無いからやめとこうかな、だんだん億劫になってきた。その日は仕事だって断ってくる」


「そんなのもったいない! そんなの行かない理由にはならないわ!」


 諦めかけた珠利の首根っこを掴んで美珠は椅子に座らせて、本をめくりながら散々思案する。


「こういうの、可愛いと思うの」


 フリルを指すと、侍女頭と珠利は首を振る。


「だったら、どんなのが……初音ちゃんに助けを求めてこようかしら」


「私は公務員だよ、そんな高い衣装身につけられないよ!」


 すると侍女頭は手を叩いた。

 丸い顔にはやる気がみなぎっていた。


「なら、私作ります!」


「え?」


「裁縫は得意なんです。私、今から生地を探してまいります。珠利さまがお似合いになる、色と形を。よろしいですか?」


「そうして頂戴! 私も手伝うから一緒に縫いましょう」


「え? そんな大事に」


 申し訳なさそうに見ている珠利に美珠は胸を叩いた。


「楽しみじゃない! 私達に任せておいて! 私、珠利のためなら、何だってやるから」


こんにちは!

アクセスありがとうございます。

そしてお気に入り登録してくださった方、ありがとうございます。


珠利、モテ期到来です。

皆「黒の章」なのに、浮かれてます。

まあ、今だけということで…

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