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黒の章 第一話 雪

お久しぶりです!

「緑の章 最終話」から数日経ってしまいました。

その間にアクセスしてくださった方、お気に入り登録してくださった方

そしてここまでお付き合いくださった方、

本当に、本当にありがとうございます。ヾ(=^▽^=)ノ


今回の「黒の章」は名前から連想されるように

総合的にダークな感じに仕上がりました。

(苦手な方、すいません)


では、では、「黒の章」お付き合いくださいませ!

 雪深い山の中、男が一人進んでゆく。

 いつの間にか、ちらちらと舞っていた雪は吹雪へと変わり、露になる頬に容赦ない冷気をたたきつける。

 それでも男は黙々と雪を踏みしめ先へと進んだ。

 自分の目的を遂行する。

 ただその一つの目的のため。


 山小屋から見える僅かな光に顔を緩め白い息を吐くと、上腕から足先にいたる体中の筋力を駆使して、雪に埋もれる足を何とか振り上げた。

 何とかたどり着いた山小屋の木の階段を三段ほど上り、扉に手をかける。

 そこで息を一度整えた。

 そして勢いよく扉を開く。

  

 目の前に広がっているのは、光の灯る温かい暖炉のある部屋ではない。

 何故か切り立った崖だった。

 それはどうみても、人の手によるものではなく、自然の産物。


「さあすがあ、まともな人間のおうちじゃないねえ」


 男はうれしそうに声をあげた。

 動じることは何もなかった。


「わくわくしちゃうねえ。このイカレ具合がちょうどいい。ねえ、あのさあ、殺して欲しい人間がいるんだけど」


 そんな声をかけても空間は変化しない。

 ただ粉雪を巻き上げる風が崖から吹き上げてくる。


「まあ、いいか。話を続けるよ~。殺して欲しいのは、紗伊那国のお姫様だ」


 すると景色は一転し、男が姿を見せる。

 あまりにも美しい男が、暖炉前に置かれたロッキングチェアーに座って揺られていた。

 ずっとそこに初めからいたかのように。

 まるで、造形物のように、作り上げられたパズルのように、その部屋にぴったりと収まっていた。


「何だ、そこにいたの?」


「紗伊那の姫殺しか。ふん、前金で金は貰うぞ」


「もちろん、お支払いするよ。ほら」


 そう言って男は金の粒を見せた。

 茶色の大きな麻袋にはこれでもかというほど金が詰め込まれていた。


「その代わり、必ず殺して欲しい。どんな手段を使っても、どんな風に命乞いをされても」


 すると男は背筋が凍るほど冷たく、そして絶対、この人間に心を許してはいけないよ思わせる凶悪な顔で笑った。


「命乞い? そんなもの、私には意味を成さないな」


「まあ、いいや。その前に聞いて欲しいこともある。ここに座るよ」


 白い獣の敷物の上に男は座って、正面にいる男に目をやった。


「その前に、俺は蕗伎。よろしく」



          *

       


「あ、悪い、きっとこの日、都合悪い」


「あ、そうなんだ」


「ごめんな、初音」


 王都の角のカフェに初音と光東の姿があった。

 お互い、やっとあわせることのできた休みを満喫していたのだが、


「そうよね。忙しいわよね。私も貰っただけだから、気にしないで」


「ごめんな。友達とか母さんとか、誰か誘って」


「うん、そうする、ねえ、お兄様、この後、どうするの? あと少しは一緒にいられるんでしょ?」


「俺はずっと初音の顔を見られればいいけど」


「もう! そんなことばっかり言って」


 初音は持っていたチケットを鞄にしまった。

 国に凱旋帰国するという世界の歌姫の入手困難なチケットを手に入れた。

 この希少価値の高いチケットを手にいれたという口実で、何とか兄と二人で見ようと淡い期待を抱き、徹夜で並んで手に入れたまではいいけれど結局兄とは予定が合わない。


 いつもいつもこうだった。

 兄は優しくて、おっとりしている。

 反面、どこか鈍くて、苛苛もさせられる。

 

 大体、あの戦いを終えたとき、一緒に住むと約束したんじゃなかったの、と苛立つ時だってある。

 けれど屈託なく笑う兄がどうしても憎めなくて、初音は笑みを返して、ただ兄を眺めていた。

 


 

 この国一の売り場面積を誇る、東和商会の本店は次の日も朝から人でごったがえしていた。

 常連の客や、取引先、地方からここにしかないものを取り寄せた客など。


 新参者として、奉公に来た子供達と同じ位の経験年数しかない初音は、社長の娘といえどもある特殊な用命以外、こきつかわれていた。

 今も先輩から頼まれて、注文のあった扇子を探していた。


「えっと、扇子、扇子、またあんな高いところに」


 荷物を取ろうと背伸びをしていると誰かが手を貸してくれる。

 礼を言おうと振りかえり、特殊な用命の依頼主の代理人を認めると、初音は笑みを浮かべた。

 初音はある要人の仕事を専門的に任されていた。

 それはこの会社を左右するとてつもなく大きな顧客であり、何よりもやりがいのある仕事をくれる大切な顧客。


「あら、相馬君、いらっしゃいませ」


「おはよう、注文あるんだけどいい?」


「今日は美珠様は?」


「姫様は勉強中」


「さ、上がって」


 一度小走りになって扇子を先輩に手渡すと、個室に通し、柔らかいソファに上客であり、よい友人の一人となった少年を迎え入れる。


「今度、歌姫くるだろ? その時の美珠様の衣装お願いできる? 色も形も全部、初音のいいようにして」


「ええ。ありがとうございます。美珠様のためにならどんな衣装も取り寄せるから。あ、そうだ。相馬君、良かったら、これ」


 急速に行く気を失い、どうしようかと持ち歩いていたチケットを差し出すと、相馬は驚いて声を上げた。


「わ、っすげええ、手に入れたの? さすが東和商会! 手に入れられないものはないね」


「違うの! 並んだのよ」


「え? 並んだの? わざわざ?」


「そう、真夜中、一人で」


 相馬はそんな苦労の化身のチケットに視線を落とし、日付を確認した。

「へええ。もらえるなら行くけどさ。何で俺に? あ、この日、光東さんと予定が合わなかったのか」


「そう」


 初音は寂しそうにため息をついた。

 そんな初音の表情を見て、相馬は口の端を持ち上げた。


「じゃあ、一緒に行こうか」


「え? 私と相馬君が?」


「まあ、一緒に戦った仲だしさ。じゃ決定」


 相馬はそれだけ言うとチケットを一枚持って出て行ってしまった。

 残された初音は全く乗り気でないもう一枚のチケットを見て項垂れた。

 もう、それは重荷になりつつあった。


「なんで、私が、相馬君と~?」


☆登場人物☆

美珠(みじゅ)… 紗伊那の跡継ぎ。16歳。

相馬(そうま)… 美珠の乳兄弟。あまり動じることはない。美珠のよき相談相手。

珠利(じゅり)… 美珠の幼馴染。女兵士。


・国王… 美珠の父、軍を纏める最高司令官。戦いで喉を切られ声が出せない。

・教皇… 美珠の母、名は黎仙(れいせん) この国の精神的支柱。

       


~国王側の騎士団長~

国明(くにあき)… 国王騎士団長 現在美珠の夫最有力候補であり幼馴染。

           22歳 幼名、珠以(じゅい)

光東(こうとう)… 光騎士団長 温厚な男 実家はこの国一の商家。

           24歳 妹、初音(はつね)と念願叶い両思いに。



~教会側の騎士団長~

聖斗(せいと)…教会騎士団長 もっとも大きな騎士団を束ねる最強の男、

         教皇を愛し盾となることを誓う。23歳 幼名、北斗

         ↑彼の幼い頃の話は『姫君の婿選び』に掲載中。

暗守(あんしゅ)… 暗黒騎士団長 水銀の髪と瞳を持つ。純粋に美珠を想う。

魔央(まお)… 魔法騎士団長 部下、魔希を愛する冷静な男。29歳


その他

祥伽(しょうか)… 紅の瞳をした男 秦奈国(西側)の第二王子 美珠の父方の従兄弟

蕗伎(ろき)…  北晋国(北側)の暗殺者

初音(はつね)… 光東の妹 紗伊那一の商社、東和商会で見習い修行をするお嬢様。

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