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緑の章 第十六話 この想いを抱いたまま誰かを愛してゆく

 日が暮れて暫くした頃、何とか宿を見つけた。

 簡単な夕食の後、美珠は暗闇に佇む聖斗を見つけて隣に立ってみた。

 別にお互い何をいうこともなくただぼんやり。

 お互いの存在を感じつつ、それでも意識しないようにしながら……。

 

 それが暫く続いて、やがて聖斗がポツリとつぶやいた。

「貴方の婿候補になった時、貴方の存在を無視し続けることに決めました」

 美珠は突然の言葉に一瞬、ただただ聖斗の顔を見ていたが、やがて理解したように一つ頷いた。

「そういえば、全然、帰ってくださいませんでしたものね」

 それからまたお互いの言葉はなくなった。


 けれどまた声を出したのは聖斗だった。

「昔から貴方が嫌いでした、といっても殆ど会話をしたこともありませんでしたが。でも教皇は貴方を誰よりも気遣っておられた。どこにいても、どんな時でも。気まぐれに乳母に手を引かれてやってくる貴方をずっと見ておられた」

「私、昔は母が怖かったんです。父みたいに手を開いて抱きしめに来てくれるわけでもないし、父のことは毛嫌いしているから私も嫌いなんだって。でも恋しかったんですよ」

「貴方は父親似だ。顔も、性格も」

「ちょっと侮辱された気分、性格までなんて」

 いつもより、少しだけ言葉の多い聖斗はほんの少しだけ笑った。


「俺は三歳で、教皇様の跡取りとなられた黎仙さまの元で小姓をはじめて、あの日からこれほど離れたことは無かった。誰よりも、あの方と作った思い出が多いんです」

「私、お母様との思い出なんて数えるほどしかありません。羨ましい」

「あの人がいてくださったから、俺は生きてこれた。強くなろうとも思えた。きっとあの方への思いは消えない。一生俺の中で生き続ける」

 美珠はただ聖斗の表情を窺った。

 教皇の話をする聖斗の顔はどこか血の通った温かさがあった。

「俺の中であの方は、母であり、姉であり、愛しい人であり、命よりも大切な俺の全てなんです。この思いを断ち切るなんてできない。これほど距離を置いてやっぱり、そう思いました」

「それは……母との関係を続けるということですか?」

「いいえ、きっと、この想いを抱いたまま俺は、誰かを愛してゆくんでしょう」

「聖斗さん」

「親の前で断ち切ると誓おうと村に行ったのに、結局あの人のことが消えなかった。なかなかしぶといみたいですね。俺は」

 美珠はそんな聖斗にもう一歩、寄ると顔を見上げた。

 少し挑戦的な目をして、

「大丈夫ですよ。母には私も父もついています。もう貴方には負けませんよ」

「さあ、どうでしょう。貴方には負けても、国王陛下に負ける気はしませんね」




「こんなお茶で申し訳ありません」

 教皇の机に魔央が琥珀色のお茶を置いた。

「聖斗のお茶は絶品ですが、私のは普通です」

「いいえ、ありがとう」

 教皇はその日の、天幕の中でその日の出来事を巻紙に記録していた。

 けれど休憩のために手を止めると、一口飲み込んで息を吐いた

「聖斗がいなければ行き届かぬところがあるでしょうが」

「いいえ、あの子もやっと親離れできるときが来たんですから。喜ぶべきです」

「また小姓を一人用意してもよいかもしれませんね」

「ええ。そうね。ただあの子は私が一番苦しい時にずっといてくれた。突然、跡継ぎになった時にも、教皇にもなった時にも」

「ええ、存じ上げております。私があの魔王とも言うべき師匠にこき使われているときに、いつも貴方の傍にいた。あの光景は私にとっても思い出です」

「あの子は、今一人で、どの星の下にいるんでしょう」



「お、帰ってきた」

 珠利は相馬相手に武術の訓練をしていたようで、腕をねじりあげられた涙目の相馬が美珠に助けを求めていた。

「何? 二人とも楽しそうな顔して」

 珠利の声に顔を見合わせると美珠も聖斗もどこか晴れた顔をしていた。

「少し星を見てきたの」

 美珠が椅子に座ると珠利は興味深々美珠の隣を陣取った。

「どんな星が見えたの?」

「すごく一途な星よ」

 美珠の言葉に珠利と相馬は顔を見合わせて眉間に皺を寄せて、聖斗に助言を求めたが彼もただ笑っているだけだった。


こんばんは~^^

アクセス、そしてお気に入り登録ありがとうございます。


珍しく聖斗さん、喋ってますね。

って、喋らせているのは私ですが・・・


残すところ、あと二話。

もうあと少しだけお付き合い下さい。

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