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緑の章 第十四話 将来は明るいよ

「運命みたい」

 美珠は出逢いの発端となった木へと目を向けてほうっと息を吐いた。

 昔と変わらず緑の葉を茂らせた広葉樹。

 けれど自分達の心の中の葉はもっと茂っていて、もう果実だって実っているに違いない。

 美珠にとっても珠利にとっても、全てを思い出して、傍にいられる今という時間はとても幸せで充実したものだった。

 だからこそ、夢見る少女のような顔をした主に笑みを向ける珠利の顔もまた充足感に満ちていた。


「だよね~。私が男だったら絶対運命だよ。珠以なんて目じゃないね」

「そうよね。かもしれないわね」

「それにさあ、こっちが隅っこで感傷に浸ってたらさあ、二人がわあわあ泣いてるんだもん。おまけにヒヨコのなき声ったら気に障ってさあ。あの時の、珠以ってば、オロオロしてるし、私がいかなきゃって思ってね」

 珠利は楽しそうにケラケラ笑った。

 けれどその後、美珠の頭を軽くポンポンと叩いて笑みを向けた。

「で、助けてあげたら、すっごい可愛いお姫様じゃない。私が守ってあげなきゃって本当に思ったんだよ、そんな気持ちになったの始めてだったんだからね。きっと私にとってはすっごい、運命の出逢いなんだよ」

 照れくさそうに、けれどすごく軽く語る珠利の笑顔をマーマ先生もまた嬉しそうに眺めていた。

 よく成長したねと言いたそうな顔で。

 そんな視線に気がつくと珠利はここの施設では見せなかった満面の笑顔を見せた。

「マーマ先生、私ね、今最高に幸せなんだ。ずっとやりたかった夢の仕事に就けたんだ」

「そう、それは私も嬉しいわ」

 マーマ先生は珠利の頭を抱きしめると軽く口付けた。

 珠利にはもう隅に座っていたあの時の悲しい瞳など存在しない。

 見たこともないほど輝いた瞳を持っていた。

「先生も私を忘れないでくれてありがとう。ちゃんと分かってくれて本当にうれしかった」

 珠利は嬉しそうに目を閉じて、細い老婆をしっかり抱きしめた。


「お邪魔しました」

 美珠一行が去ろうとしたとき、頬に手を当てて聖斗を眺めていた老婆が声をかけた。

「貴方、『おにい』よねえ?」

「おにい?」

 聖斗が突然の言葉に首をかしげる。

「あら、違ったのかしら。ごめんなさい」

 けれど聖斗は珍しく食い下がった。

「おにいとは?」

「ああ、あの利ちゃんの所に一年に一度来ていたおにいちゃんのことなんだけれど」

 美珠と相馬の耳は自然とでかくなり、音を拾おうと寄って行く。

(珠利にお兄ちゃん? そんなの初耳よ!)

「ああ、『お兄』? 違うよ。この人じゃないよ? 似てるかな? だってお兄、もっと年、上だったもん。 ここにいる頃、一年に一回ぐらい来てくれたんだよね。お土産持って豪快に笑いながら。まあ、その人が本当のお兄ちゃんなのか、なんなのかは分らないんだけど」


 胸を張って歩いてゆく珠利を門のところまでマーマ先生や孤児たちがお見送りをしてくれていた。

「おっし、あんたたち、いいこと教えてあげよう! 実は内緒だよ。このむっつりしたお兄さん、皆みたいに孤児だけど、この国で一番強くて、一番大きな教会騎士団の騎士団長なんだよ!」

 すると子供から歓声が漏れた。

「私も、ここで育ってね、今はお姫様を守る仕事をしてる、すごいでしょ?」

 すると子供達は目を輝かせて頷いた。

 珠利は本当に嬉しそうに、そして自慢げに続けた。

「それでね、私達は親に何の力もないけれど、絶対に夢を諦めなかった。確かに諦めたくなるときは何回もあったんだ。無駄だと思うことも何度もあった。でも諦められなかったんだ。皆も、もしやりたいことがあるなら諦めちゃだめだよ。諦めたらそこで終わり、諦めなかったら夢は続いていくんだから」

 そして珠利は子供達に満面の笑顔を見せた。

「あんたたちの将来は明るいよ! だって、夢を叶えることが大好きなお姫様が跡継ぎだからね」

 珠利は抜けるような青空にただ笑い声を響かせていた。



いつもお付き合いありがとうございます。


早いもので、もう緑の章も十四話。

あと少しになってきました。

あともうちょっとだけお付き合いくださいませ!

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