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緑の章 十二話 ある少女との出逢い

 うだるくらいの暑い日。

 陽炎の立ち昇る道の向こうから黒塗りの馬車がやってきた。

 どこぞのお大尽だと噂したくなるような見事な車には、この国の貴族の紋章、双頭の鷲が彫ら左右に施されていた。

 扉が開くと中から、すっきりした身のこなしの男が姿を見せる。

 この男は大臣だった。

 王すら黙らせるというこの国の頭脳。

 そんな大臣がマーマが経営する孤児院に視察に遣ってきたのだ。

 子供を連れて。

『これはこれは、戸部大臣様、お久しぶりですこと』

『ええ、お変わりなさそうでなによりです」

 戸籍などを司る大臣は施設にさっと目をやって、連れていた子供三人を解き放った。

 するとまるで蜘蛛の子を散らすように三人楽しそうな声を上げて駆けて行く。

 きっと馬車の中が退屈で仕方がなかったのだろう。

『可愛い息子と親友二人の子ですよ』

 この国の頭脳である男は、暫く優しい目で駆け回る子供達を見てから、ゆっくりとマーマ先生と呼ばれる女性へと目を向けた。

 子供の自分から見てきた優しくて強い女性の顔には、年季を感じるものがあったが、それでも立ち姿にはまだ凛としたものがあった。

『お変わりないようで。今日は小麦などお土産にお持ちしました』

『まあまあ、大臣様、誰に何を言われたかは知りませんが、お気遣いはいりませんよ』

『お見通しでしたか。ただ、私自身も、一度お伺いしなくてはと思いましてね』

『まあ、ありがとう、麓珠さん』

 微笑むマーマ先生に笑みを返し、もう一度、今度は建物の奥へと目をやった。

 建物こそは金の掛かったつくりであったが、中は手作りのもので溢れていた。

 きっと、拾ってきて修理したのであろう机と、木を組み合わせて作った長いす。

 沢山ならんだ、棚には個人個人の荷物がきっちり入れられていた。

 そしてその前にすわって微動だにしない子供がいた。

 少し長い髪を一つにまとめ、妙に細い少年か少女かもわからない子供だった。

 息子、珠以よりも少し幼い体つきだった。

 子供達は皆、駆け回っているのに、その子だけ完全に打ち解けられないでいた。

 はじめは座敷童でも見たのかと思ったが、

 違う。

 生きてはいた。

 けれどどれだけ近づいてもその子からは子供特有の匂いがしなかった。

 土、外の風、おやつ、食事、

 何の匂いもしない。

『あの子は? 最近?』

『いいえ、ずっとおりますよ』

 けれどその子が気になっているのはマーマも同じだったようで、少し息を吐いてから、簡単にその子について語った。

『あの子はもうここに来て六年になります。六年前の年が変わる日にこの門の前に捨てられてまして。でも、いつまでたっても誰とも打ち解けないんですよ』

 困ったように頬に手を当てて呟くマーマの隣で麓珠はもう一度、子供に少し目をやって、それから今度はこの施設を見回るために部屋を後にした。


 小一時間たった頃だった。

 麓珠がマーマから、この施設の経営状況や、子供達の進路について聞き取りを行っている時に尋常ではない声が聞こえた。

 庭から聞こえる悲鳴と泣き声。

 それはすぐに先ほど解き放ったこの国の姫、美珠とその乳兄弟、相馬の悲鳴だと分り、麓珠は走った。

 まさか、暴漢に姫が襲われたのかと最悪の事態を予想しながら、腰に帯びた剣をきつく握り締める。

 けれど、すぐに逼迫した事態でないことが分かった。


 

ご無沙汰してしまいました!

毎日、お付き合いいただいている方、申し訳ございません!

全くネットが使えない環境におりまして・・・


さてさて、今晩は、美珠と珠利との出逢い。

突然、現われ、いまいち素性の分からない美珠の姉貴分、珠利。

今回、その少しでも紐解ければと思います☆

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