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紅の章 第十三話 聖斗にかけられる圧力

「何・・・着ていこうかな。」

 侍女たちは次々に服を出しては美珠の前に持ってくる。

「可愛いほうがいいのかしら、綺麗なほうがいいのかしら。」

「国王騎士団長でしたら、綺麗系で纏める方が。」

 侍女にも気合が入っていた。

 白い衣装を持った侍女が一歩前に出てくる。

 すると負けじと黄色の衣装を持った侍女が前へと出た。

「でも、可愛いドレスも今のうちにしか着れませんし。」

 侍女たちは主の晴れ舞台の出席を後押ししようと次から次へと色々なものを持ってきていた。

 その後ろで相馬だけは一人退屈そうに座っていた。

「何でもいいんじゃないの?いっつも会ってるんだしさ。」

「そういうわけにはいかないんです!」

 相馬に怒鳴り返したのは、侍女二人だった。

 相馬は頭を下げると立ち上がった。

「なんなら、国明に聞いてこようか?」

「そ、それはまた違うんです!」

 美珠の言葉に相馬は気圧されてまた座り込む。

「よし!今日はこの可愛い桃色のドレスにしましょう?」

 そのほうが気兼ねなく甘えられると勝手に思った。

 それが本当に出来るのかは別として。

「了解しました。ではまた、後ほどお支度に参ります。私どもはこれに合う飾りをご用意いたしますね。」

「よろしくね。」

 美珠が満面の笑みを浮かべて振り返ると相馬が安心したように頬を緩めた。

「やっと、笑ってる。」

「え?」

「最近、顔強張ってたからさ。」

「本当に?」

「ああ、怖い顔してた。まあ、今日はゆっくりしようよ。」

「うん。」

 相馬はそういうと美珠の部屋の本を一冊手に取った。

「勉強する意欲があるのはいいことだよ。でも自分が壊れちゃったら意味ないからね。さてと、俺も準備してこよう。」

「うん。」

「じゃ、また後で!」


「入るぞ。」

「失礼いたします。」

 文官の長が部下に書類の山を持ってこさせるのを見て、国王は項垂れた。

「なんだ、嫌そうな顔だな。決裁をもらわなければいけないものは山ほどある。こちらだって急いでいる書類があるのだ。本当にどの部署も緩慢でやる気がないのか?さっさと仕上げてくればいいのに、この年度末の忙しいときに。」

 王の代わりに言いたい文句を全て言い終えると、部下にあごで示して国王の机に置かせた。

「しかし、教皇様が見張っておられるとなると、いつもよりも仕事がはかどっておられるようだな。」

 男は隣の教皇に目をやった。

 教皇は目を通していた陳情書から顔を上げた。

「最近、夜盗が出没しているのですか?極西地区で黒服の男が闊歩し、治安の低下を気にしている地方役人が多いようですが。」

「お見せいただいてよろしいでしょうか?」

 麓珠は国王の隣に腰掛け教皇から書類を受け取った。

 その陳情は数にして五通。

「数はさほど多くは無いですが、地区の偏りから遜頌が私の元へ持ってきました。」

「分かりました、至急数馬と協力し、現地に向かわせましょう。」

「頼みましたよ。」

「は、教皇様の命令とあれば。ああ、そういえば。」

 麓珠は顔を崩した。

「今日は教皇様が粋な計らいをしてくださったと。」

「早いのですね。」

「息子のことなら何でも気になるのですよ。父親ですから。たとえ、息子がもう成人していようが、私のことを全く気にしてないようなそぶりを見せていても、私は可愛くて仕方ないんですよ。今でもあの子に頬擦りしたくなる。照れてもうあまりしてくれませんが。」

 後ろで麓珠にお茶を入れようとしていた聖斗はあまりの言葉に持っていた茶器を落としそうになって、慌てて掴んだ。

「おや、どうしたんだい?君の入れるお茶はとてもおいしくて好きなんだ。ありがとう。」

「失礼いたしました。」

 聖斗は茶の入った器を麓珠に渡すと、麓珠は早速口をつけた。

「騎士団長がこれほどにおいしいお茶が入れられるとは、素晴らしいものだ。」

「ありがとうございます。」

 聖斗はもう平静な顔に戻っていた。

「私なんて、息子に、あの可愛い息子に最後にお茶を入れててもらったのが九歳と八ヶ月十三日が最後だ。その後は、騎士の訓練場に入るなんて言い出して、大怪我をして戻ってきて暫く養生して、やっと手元に戻ってきたら不良息子になってしまって。」

「不良息子?」

 聖斗は思わず声に出していた。

 そして慌てて、一歩下がった。

 すると麓珠は首を振って頭を抱えた。

「そうだ、不良になってしまったんだ。夜は遅いし、帰ってくるといつも香水と酒の匂いはしてるし。まだ十五のあの子がだ。はあ、あれほど、純粋な子が。一時期はあの子の将来を考えると頭痛がしたが、騎士になれて本当のあの子にもどった。同僚としてどうだろう?国明は可愛いくて素直な子だろう?なあ、君どう思う?」

「はあ。」

 聖斗は質問してしまったことに後悔しつつ、困ったように教皇に救いを求めた。

 教皇はお茶を置くと、そんな可愛い部下に救いの手を差し伸べてやった。

「ええ。とても可愛くて素直な子よね。聖斗。」

 聖斗は頷くことができなかった。

 頷くと上の者の圧力に負けた気がした。


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