緑の章 第二話 彼を変えたもの
父の部屋では父と母が向かい合って座っていた。
その後ろには光東と国明の姿。
「お母様、もう出発のご準備は整われたの?」
美珠は隣にこいと手招きする父を無視し、迷いなく母の隣を選んで座った。
「ええ」
「お母様と二週間もお会いできないなんて」
教皇は明日から外遊に出ることになっている。
まずはじめに先日北晋国に襲われた村を回って、そのまま北へと進路をとり、二週間の間に三十の都市や村を回ることになっていた。
かなりの強行日程。
「お体には気をつけてくださいね」
「ええ。そうね。そうだ、美珠、貴方にはお願いがあるの。きっと貴方が適任だわ」
「なんですか? お母様。できることならなんだってしますよ」
「あの人がこの二週間、浮気しないか見ていて頂戴」
「もちろんですよ!」
美珠が母にしっかり頷いて、強く誓うと、国王は後ろの二人の騎士団長に視線を送った。
その二人もまた王に深く頷いた。
しちゃいけませんよという目で。
するわけないだろうという顔をする父は、それでも妻と娘にいぶかしまれ、小さくなってゆく。
「そうだ。お母様、これを」
美珠は掌に握っていた小さなものを母の手に乗せた。
そこには紅い絹の布に金糸で百合の花を刺繍した巾着があった。
美珠手作りの匂い袋。
「カモミールの精油をしみこませたものなの。お母様のお疲れが取れますように」
母親は娘の気遣いに顔を緩めると微笑んでその匂い袋を自分の懐に入れて、娘の手を撫でた。
彼女にとってどんどん距離の縮まってゆく娘が可愛くて仕方なかった。
「ありがとう、大切にするわね」
「失礼いたします」
入ってきたのは魔央。
腕には分厚い書類の束を挟んでいた。
「おや、皆様おそろいで」
「あら、魔央さん、今回の遠征は魔希君も一緒に?」
「ええ。今回は一緒に連れて行きます。まあ、姫様がここでじっとしていてくださればの話ですが」
漆黒の髪を耳にかけながら魔央は美珠を試すような瞳を向けた。
しちゃいけませんよという国明と光東の視線を感じ美珠もまた父のように小さくなりながら言葉を返した。
「何か、視線が痛いです。分ってます。先日の一件で、ここのすばらしさが分かったんです。もう勝手にでようと思いませんよ。珠利だっていてくれるんですから。出たくなったらご相談します」
「なら、魔希をつれてゆくことにします」
魔央は微笑み、教皇へと向いた。
「何かありましたか?」
「いえ、聖斗が今回、教皇様のお供をしないと耳にしましたが。いつもなら必ずおりましたのに」
美珠は母へと顔を向けた。
「ええ。そうよ。その間、一週間休みを取りたいって」
「お休み?」
「ええ。」
そう頷いた母の表情はどこか寂しそうだった。
けれどすぐに笑みを浮かべた。
「何があの子を変えたんでしょうね」
( ゜▽゜)/コンバンハ
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さて、聖斗は一体どうして、教皇様から離れてゆくのか……