紅の章 最終話
「本当に色々ありましたね」
「ああ」
美珠と祥伽は沈んでゆく夕日を見送っていた。
「あの柵で会った時、貴方と友達になるなんて思いもしませんでした」
「俺だって、紗伊那の姫と友達になるなんて思っても見なかった。まさか噂にしか聞いたことのない深窓の姫君がフラフラ町を歩いてるなんて考えもしなかったしな」
「あら、私だって貴方をただの不審者としか思ってなかったわ」
そして二人は噴出して、見つめあった。
その最後の光が二人の顔を照らしていた。
「また、会えるよね?」
「ああ、遊びに行く。お前も一回、秦奈国に来い」
「ええ、行きたいな。香苗さんとまた祥伽の悪口いいあうんです」
「悪口を言われる覚えはないがな」
「じゃあ……気をつけて」
美珠は祥伽を正門まで見送った。
国王、教皇は広間で別れの言葉を伝えたが美珠はついていける限界のところまで見送りたかった。
後ろには先程の襲撃もあり、国王騎士がついていた。
「蕗伎をとっ捕まえて、すべて話をさせたら、連絡する」
「ええ。そうね。待ってる」
美珠が微笑むと、祥伽は乗り込んだ馬車から手を出した。
美珠も自分の手を差し伸べた。
固く繋いだ手に祥伽は額をつけた。
「ちゃんと香苗さんにお手紙つけるのよ」
「嫌だね」
祥伽は鼻で笑うと美珠の手を引き寄せた。
美珠は祥伽へと一歩近づいた。
「絶対、お前のヘタレの男より俺の方が格好いいからな」
「あのね、相馬ちゃんは出来る子なのよ。それに! 私の好きな人は!」
言おうとして後ろに国王騎士がたくさんいることを思い出した。
「まあ、いいわ。今度会った時にちゃんと伝えるから」
「お茶ぐらい完璧に淹れさせとけ」
「はいはい」
美珠と祥伽は笑い合って手を放した。
ゆっくりと馬車が動き出す。
美珠はただその馬車をずっと見送っていた。
「今度か」
祥伽は美珠と今まで繋いでいた手を眺めながら顔を緩めた。
「何だ、恋をしたか?」
兄が祥伽の肩を抱いて顔を寄せた。
「なに、美珠姫にか? 祥伽、よいではないか! 馬車を戻して今から兄上にご相談を! 兄上には美珠様の婚約者については一蹴されたからのう」
「よせって!」
「何を言っておる!」
祥子を押さえつけると祥伽はチラリと後ろを見た。
美珠の小さな姿が見えた。
「じゃあ、またな」
祥伽が馬車から顔をだして手を振ると、美珠が更に大きく手を振るのが見えた。
そんな姿が愛しく思えた。
「また、な」
きっとまた自分から逢いに来る。
正々堂々王子として。
今度は自分の国、全ての期待をひきさげて。
祥伽はずっと体を乗り出して手を振り続けた。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。
無事、「紅の章」終了です。
蕗伎のいる「北晋国」については後日、別の章で連載を予定しております。
その際にはまたお付き合い下さると幸いです。
尚、次の章のメインは珠利と聖斗の予定です。
整い次第、このままリターンズの中で連載して行くつもりですので、
数日したら覗いていただけると幸いです。(「゜ー゜)ドレドレ..
感想などいただけると、とてもありがたいです。
ここはこうして欲しいとか、誰がウザイとか、
よろしければ、「長い」「くどい」「まあまあ」など単語ででもいただけると小躍りして喜びます。
長い連載になりましたが、本当にありがとうございました。