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紅の章 第百十一話 突きつけられた銃

「何だ? 元気がないな」

 部屋で美珠が机に突っ伏していると窓から入ってきたのは祥伽だった。

「うん。頭が重いの」

「飲みなれない酒を飲んだからな。二日酔いだ」

 祥伽は机の上に無造作に置かれた空の酒瓶を見て噴出すと美珠の前に腰掛けた。

「付き人は? いつもいるだろう? 金魚のフン」

「相馬ちゃんを刺激しないで、あの人はちゃんとやってくれるの。今だって、私の具合が良くなるって言うものを片っ端から集めてくるって」

「へえ」

 祥伽は美珠の前に置かれもう冷めてしまったお茶に口をつけた。

 美珠は息を吐いて、首を動かすと祥伽へと視線を向ける。

「何、睨んでる?」

「睨んでるって何? 見てるだけよ。それにそんな力、もうどこにもありませんよ。……ねえ、夢が叶わないって思った時、祥伽ならどうする?」

「どうした?」

「私ならどうするんだろう。大好きな人と結婚して、その人と一緒に国を治めて、この国を豊かにして。でも、絶対それが無理になっちゃうの。好きな人が他の人に向いて、この国を治めることすら出来なくて、この国が荒廃してゆくって」

「何だ? 重いこと考えてるんだな」

「そんなことになったら私、堪えきれないよ」

「項慶か?」

「項慶だけじゃない。そんな人きっといると思うの。でも、女性の門戸が開かないからどうしようもない。どうしようもないって何?どうしたらその夢を叶えられる?」

 祥伽は美珠をまっすぐ見つめ、美珠も祥伽をまっすぐ見つめていた。

 為政者候補としての助言が欲しかった。

 ただもう自分の中の答えは出ていた。


「答えは分ってる。私が頑張って変えればいいの。でも、私、一人になって孤立するのが怖いの。私だって女だもの。こんな馬鹿なことを考えてる奴が王になるなんて、女の王なんて認めないって言われるのが怖い。それに皆を困らせたくない。皆の期待には応えたいのに」

 涙を隠せなかった。

 机の上に水が落ちる。

 何粒も零れ落ちてゆく涙を見ていた祥伽は突然机を叩いて立ち上がった。

 その荒々しさに驚いて美珠が顔を上げると、祥伽は踏ん張って美珠を持ち上げた。

「やっぱり重い」

「な、何するの?」

「王族の特権を使う」

「特権って何?」

「命令だ」

「ええ? ダメ、皆を困らせるわけには!」


 祥伽が足で扉を蹴ると、警備の騎士達が慌てて顔を見合わせた。

 この男はいつこの部屋に入ってきたのかと。

 予想外の出来事だった。

 祥伽はそんな騎士達を見据えると怒鳴りつけた。

「さっさと上の奴ら呼んで来い。さもないと姫を無理やり連れ去るぞ」

「ちょと何するの!」

 騎士達がそんな乱心した王子を止めようと、腰を落とすと祥伽は一度美珠を地面に投げ捨てて、懐に手を入れた。

 乾いた音が一度。

 弾が騎士の頬を掠め後ろの壁に着弾する。

 それに少し遅れて騎士が高い音で笛を吹いた。


 すぐに騎士や兵士達が城の中から聞こえた笛に警戒行動を取り、周りが騒がしくなってゆく。

「祥伽! ちょっと、今すぐ謝って」

「嫌だ」

 祥伽は再び美珠を担ぎ上げ、すぐ傍の庭のベンチに下ろした。

 周りには騎士や兵士が集まり、人だかりができてゆく。

 すぐに相馬が駆けつけて、人ごみを縫って現れた。

「美珠様!」

「相馬ちゃん!」

 魔法騎士団長が魔法騎士数人を連れて来たのを見て祥伽は美珠を引き寄せ頭に銃を突きつけた。

「変なことしたら頭をぶち抜くぞ」

「ちょっと!」

 後ろから近づいた珠利が二人を引き離そうとしていた。

 けれどその足元に小刀が刺さる、それは木の上からだった。

 踏み出しそびれた珠利の目の前には頭に銃を突きつけられた主。

「美珠様!」

 国明の声だった。

 騎士達は団長に道を譲り、前へと出した。

 それに遅れて暗守や光東なども駆けつける。

 空気は張り詰めていた。

「祥伽、何、するつもり!」

「脅しと命令だ」


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